ロンピー、ショーピー
秋うららくはへ烟草の先の空 獺亭
先日の落柿舎での句会でつくった句。
たばこはたしなまない。しかし人が屋外でうまそうにふかしている姿を見るのは嫌いではない。昨年亡くなった昔の職場の上司も愛煙家で、ロングピースをくゆらせる人だった。病気でたばこを断ったあとも、他人がピースを吸っているとその香りを愉しんでいたことをなつかしく思い出す。
今日の新聞を見ていたら、EUでたばこのパッケージに癌で黒く病変した肺の写真などを掲載することを求めるとか。こちら。
なにもそこまで、と思うが、吸いたい人はそれでも吸うのだろう。(そこまでして吸わなくても、と思うべきなのかもしれないが)まあ、外で呑んでくれる分にはとくに干渉しようとは思わないけれど。
ところで、京大俳句事件の第二次の検挙で三谷昭が東京から京都の堀川署に護送され、留置所に入れらる話が(不謹慎だが)おもしろい。昭和15年のことだが、大部屋の雑房には七人の先客がいた。牢名主が、お前はなにをやらかしたんだと訊くので「特高関係だ」と答えると、一目置いてくれて、二番目の序列にしてくれた。堀川署の留置所では牢名主は看房長というのが正式名称で、掏りやこそ泥は、数日で出ていくので一月もすると三谷昭が晴れて看房長となり、新入りが入ると「お前は、これか(小指を立てる)それとも、これか(人差し指を曲げる)」と訊くのも堂にいったものとなった、ト。
三谷がいた房は「3房」だったが、隣の「4房」にも、先にしょっ引かれた和田辺水楼がおり、こちらも看房長だった。辺水楼は六尺(181cm)近い大男、三谷昭は五尺二寸(158cm)の小柄な男だったので、房の者はロング親分、ショート親分と尊称したそうな。
ロングとショートの名づけは、たばこのロングピース、ショートピースからかしらと一瞬考えたが、大東亜戦争のさなかにこんなネーミング(なんせ英語でピースだからね)のたばこはないだろうと気づく。
この名前、いつつけられたのかはわからなかったが(これは宿題。どなたかご存知でしたら教えてください)JTのホームページでピースのことを調べたら、おもしろいことが書いてあった。ここ
ピースは1952年にパッケージ・デザインを変更した。深い紺色の地に鳩とオリーブをあしらった例の奴だ。このデザインはレイモンド・ローウィによるもので、意匠料は150万円、当時、内閣総理大臣の月給が11万円だった。平成15年度特別職職員の俸給月額表によれば内閣総理大臣の俸給月額は2,227千円なので、単純計算すれば、いまに置き換えると3千万円くらいだが、もちろんそのころはたかがたばこの図案にそんなカネを払うのかという感覚だったのだろう。しかし、このパッケージのおかげで、売上げは前年同月比で3倍というから、やはりたばこは気分で吸っていることが、これからもわかる。EUで肺ガンの写真をパッケージに付けたら、売り上げは三分の一になるのだろうか。
さてロングピ-スを愛したSさんの一周忌がもうじきやってくる。吸わない烟草に火をつけて清みきった空にむけて紫煙を手向けることにしようか。
Photo by Foxgirl on Flickr
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コメント
この記事のご紹介、ありがとうございます。
おもしろく読ませてもらいました。
ピースのパッケージ・デザインについては知ていました。
これは、デザインとしては実に格調高く、完成度も優れたもので、私が尊敬するデザインの一つです。だた、時代のテイストというものがあります。タバコのマークとしては現代では、古すぎるような気がします。平和関係の団体のマークなどには相応しいと思いますが。
投稿: kuniharu shimizu | 2008/03/20 13:25