童話のはなし
仕事帰りにギターの楽譜を買いに紀伊国屋へ行ったら、レジのカウンターの上に『うずらちゃんのかくれんぼ』(きもとももこ/福音館書店)が山積みにされていた。いよいよ大増刷が出まわりはじめたらしい。ちなみにこの本、いまやアマゾンのベストセラーの7位であります。結構なことである。まあ、どうでもいいけど。(悪意はない、念の為)
平積みにされた罪の無い童話を横目で見ながら思い出した歌があった。
眠られぬ母のため吾が誦む童話母の寝入りしのち王子死す
これは岡井隆が慶応の医学部に入って、アララギ東京歌会に出るようになった頃の歌。昭和25年頃のことだ。東大のそばのお寺で開かれた「芽」(東大アララギ会を中心とするグループ)の歌会に出したと本人が語っている。まるで母ではなく妹をあつかうような保護者的な現実ばなれの感があると批判されたが、このとき、岡井の母は精神を病んで不眠、妄想に苦しんでいたらしい。その歌会では「王子死す」について米田利昭が、王子が死ぬ童話なんて現実にあるだろうか、ないのではないかと言ったとか。
「詩における虚構の力について、アララギの歌学では、認識しえてゐなかつた時代のことである。」(『前衛歌人と呼ばれるまで』岡井隆)
photo by Zen on Flickr
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