密告者Nを探して(承前)
昨日の続きを書く。
「N」が誰であるかは調べていくうちにわかった。「旗艦」に関係した俳人のうち「N」というイニシャルの人物をリストアップし、京大俳句事件で逮捕された人を消していけばいいのである。そうすると数人がのこるが、このなかで韻律問題をさかんに論じた人物を特定すればいいのだ。図書館で調べていくうちに、ははあ、この男だな、とわたしにはわかった。
しかし、じつはそんなことをするまでもなかったのだ。
昭和俳句史関連の本をテーブルに積み上げて目を通していくうちに
『体験的新興俳句史』古川克巳(オリエンタ社/2000)
という本にぶちあたった。出版年は2000年だが復刻版の編集とおぼしい内容。どこからが著者の意見で、どこからが引用なのか、わかりづらい本だが、ぱらぱらと読み進めていくと、「特高に狙われた京都俳句界の実態」という題名の文章が目にとまった。副題はふたつあり、「京大俳句事件のユダの真相は」と「新興俳人Nのヌレギヌの謎は」である。(p.381)
このなかに、わたしの推定した人物が、「N」であることがすでに明らかにされていた。
ただし、いろいろ考えて、ここでその人物の名前を書くことはしないことにした。
理由はふたつある。
ひとつは、単純なことで、名前を聞いてもたぶんほとんどの人が知らないだろうからだ。「えっ、あの俳人だったのか」というような発見や意外さはないのだ。だから名前を明かすことに意味はほとんどない。(これは逆に言えば、この人物が俳壇の記録からきれいに抹消されたということを意味するのかも知れない)
もうひとつは(こちらの方が重要だが)上記の『体験的新興俳句史』であきらかにされている文脈である。副題をみれば想像がつくように、これは「N」が特高の密告者であったという風聞自体がヌレギヌだという立場なのである。だから、興味本位で名前を書いてしまうことにはやはり躊躇せざるを得ないのだ。
──というわけで、もし「京大俳句事件」&「N」なんてキーワードで検索をしてここに辿り着いた方がいらっしゃれば、申し訳ないが、名前は自分で調べてくださいね。
どうしても知りたい場合は、上に書いたようなやり方をすれば、わかる筈です。
『体験的新興俳句史』は、たぶん自費出版に近いような書籍みたいな気がしますので、よほど大きな図書館でないと置いていないかも知れません。
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