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2004/12/18

チェスのTSE則と北朝鮮

ボビー・フィッシャーが入管法違反で日本政府に拘束された話題は今年の7月16日の条に取り上げた。(「俵万智とボビー・フィッシャー」)
今日の朝日新聞によれば、アイスランドがビザを発給するようだ。変人には違いないが、なんとか日本政府も出国させてやればいいのだがと思いながら記事を読んだ。

日本で拘束のチェス元王者、アイスランドが査証発給へ

アイスランド外務省は16日、入管法違反(不法入国)の疑いで日本で身柄を拘束されているチェス世界選手権の元王者ボビー・フィッシャー氏に対して無期限の居住査証を発給することを決め、日本政府に伝えた。同外務省は、「日本を出国するかどうかは日本政府次第だが、アイスランドに入国した場合はフィッシャー氏に対し査証を発給する」としている。この決定は16日までに在日大使館などを通じて日本側に伝えたという。

アイスランドは1972年、フィッシャーが29歳でソ連のボリス・スパスキーを破って世界チャンピオンになったときの開催国である。なかなか粋なはからいのように思えるが、こんな感想はナイーブにすぎるかもしれない。
そこで今日はチェスの話を書いてみる。チェスの世界は奇人変人ぞろいで、ゴシップの宝庫なのだ。指すのはへぼもいいところなのに、こういう話題には目がないのである。うまく着地できるかどうかはわからない。

TSEという言葉をご存知の方はなかなかのチェス通だ。
20世紀の初頭にA・ニムゾヴィッチというチェス・プレーヤーがいた。(Aron Nimzowitsch 1886-1935)ロシアはリガという地方都市に生まれたために世に出るのが遅れたようだが、その著書『My System』は斬新なアイデアにあふれ、現代チェス理論の新しい時代をひらいたと言われている。(といっても別に読んだことがあるわけではない)

1927年、ニューヨーク。
ニムソヴィッチはユーゴーの強敵ビドマーと対局した。現在ではチェスのトーナメントでは禁煙らしいが、この当時はとくに規定はなかった。ビドマーは葉巻の愛好者で、対局中にスパスパやりはじめた。ニムゾヴィッチは煙草はやらない。チェスの公式マッチでは直接対局者に話しかけることはできないのでニムゾヴィッチは審判に葉巻を吸うのを止めさせるよう抗議した。ビドマーはこれを受け入れて葉巻の火を消してサイドテーブルの灰皿に置いた。
ところが、ニムゾヴィッチは執拗に抗議を続ける。
審判が「だって葉巻には火がついていないじゃないですか」と言ったときにニムゾヴィッチはこう言い返した。
「でも今にも吸おうとしているように見える。脅しは実行よりも効果があるというじゃないか」

これを英語で言うとこうだ。
The threat is stronger than its execution.
Threat, Stronger, Execution のそれぞれの頭文字をとってこれを「TSE」という。

経済制裁を発動すると、それは宣戦布告とみなすそうだ。ちょっと前には、戦争となればトウキョーは核の火の海になるとあの国の厚化粧のアナウンサーが声を張り上げていたな。
「経済制裁するぞ」という脅しと、「核の火の海にするぞ」という脅しを並べてどちらが迫力があるかといえば、これは考えるまでもない。
問題は「意思と能力」だが、実際に起爆できるかどうかは別として核はもっているようだ。運搬能力は弾道ミサイルはあやしいが、かれらは別にミサイルにこだわる必要はないだろう。日本海側のどこかで小型トラックに移しかえて、東京に運べばいいだけである。
では事前に、これを完璧に把握し阻止できる諜報能力を日本政府はもっているだろうか。たぶんない。
すると、TSEではどうもかないそうもないとわたしは思う。
「経済制裁発動!!」なんて幼稚な宣言は気分的にはすっきりするが、TSEのチキンレースをやれば、たぶん面子を失うだけじゃないかな。安倍晋三あたりが「おう、やるならやってみろ。首都圏一千万人くらい殺されても日本が滅ぶわけじゃない」とでも啖呵を切る気があれば別だが。
だんまりで実質的に日本からあの国へのマネーの流れをひとつひとつしらみつぶしに断っていくしかないかのなあ。

Nimzowitsch photo by Sutton Coldfield Chess Club
(注)
ニムソヴィッチの元ネタは『将棋とチェスの話』松田道弘(岩波ジュニア新書/2000)です。これはジュニア新書なので大人はあまり手に取らない可能性が高いけれど、とても面白い本でオススメです。

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