世知辛いリアリストの世間知らず
『毒薬の小壜』シャーロット・アームストロング/小笠原豊樹訳(早川文庫/1993)はちと毛色のかわったミステリだが、なかなか面白かった。
登場するのは、みなそれぞれ好感のもてる人々。ただひとりだけとてつもなく不愉快な人物が出てくる。主人公の妹なのだが、彼女は人間の善意や信頼というものをまったく信じていない。人間のおこなう行為にはすべて隠された利己的な動機があり、それは無意識のなかに潜んでいるがために当人はそれを知ることさえできないのだと言うのだな。いいのよ、あなたがたは美しい詩や芸術や学問の世界の人だもの。わたしは実社会で生きてきた人間、世知辛い世間にもまれて人間というものを多少は知っている。わたしはリアリストなの、わかる?
いますねえ、こういう人。
以下、多少、脱線して言うと、政治や経済についてさも訳知りなことを書いているブログライターにはどうもこういう傾向があるような気がする。(わたしにもそういうきらいがある)だが自称「リアリスト」が意外に世間知らずで、子供を育て老人を看取ってきた家庭人がもっているごくまっとうな暮らしの知恵に足下を見透かされていることもあるのではなかろうか。ときどき本書にでてきて偉そうな御託をのべるアホな「リアリスト」になっていないか、考えてみた方がいいかもしれぬ。
本書、娯楽小説としては、前半、この人物の言動にいらいらしながら読むのでページが進まない。が後半に入って一気にサスペンスが盛り上がると言う寸法だ。サスペンスとは言っても、訳者いわく「善意のサスペンス」だが、これはまことに言い得て妙。ルース・レンデルやパトリシア・ハイスミスの巧さとはまた全然違う。まあ、このあたりは好みの問題だろうし、以前だったらわたし自身もあまり買わなかったかもしれないけれど。
1959年のアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞。派手な連続殺人やら奇抜ななサイコパスをもちださないでも面白い探偵小説はちゃんと書けるという芸がかつてはありました、というお話。
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コメント
書名が不正確では?「小瓶」ではなく「小壜」では?
投稿: Kiyoshi | 2005/02/23 14:06
ありがとうございました。
たしかに「小壜」ですね。本文も訂正しておきました。
投稿: かわうそ亭 | 2005/02/23 17:04