大丈夫、心配しなくていい
『仏教発見!』西山厚(講談社現代新書/2004)は、決して要領よくまとまった本とは言えないが、温かく大きな力に満ちている。
西山さんは現在、奈良国立博物館資料室長。
2002年に大仏開眼千二百五十年記念の「東大寺のすべて展」を博物館は開催した。このとき東大寺整肢園の子供たちに話をすることになった。小さな車椅子に乗った二十六人の子どもたち。このなかには目の見えない子もいる。言葉を解しない子もいる。
展示を見終えたときに先生から声を掛けられた。「質問があるそうです」。足元の男の子の目線にあわせてしゃがむと、両足をあげた状態で車椅子に固定されており、体のあまりの小ささが私の胸を衝いた。質問内容は、大仏の手の形の意味だった。大仏の右手の形は施無畏印(せむいいん)といい、畏れを取り除くポーズである。「あれはね、大丈夫、心配しなくていい、大丈夫、っていってるんだよ」と言って、形を真似た右手を男の子の胸にそっと当てると、うれしそうにしていた。そばにいた先生が「よかったね、よかったね、心配しなくていいっていう意味なんだね」と興奮されていたのが印象的だった。帰っていく子どもたちのうしろ姿を見ながら、私は涙が止まらなかった。
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