十四歳の出家
町田宗鳳(そうほう)さんのこと。以前『法然対明恵』(講談社選書メチエ/1998)と『〈狂い〉と信仰』(PHP新書/1999)という本を読んだが、いずれも蒙を啓かれるようないい本だったような記憶がある。例によって内容はすっかり失念しているが。(笑)今日はこの方の『前衛仏教論』(ちくま新書/2004)を読んだ。さきの二冊にはなかったご自身の修業時代のこともすこし語っておられるので面白いと思った。
この方の経歴はかなりユニークだ。1950年に京都に生まれる。お父さんは俳人(俳号は世耕という)でたくさんの弟子を持っていたという。(残念ながらどういう俳人なのか不明にして存じ上げない)十四歳、中学二年生のときに出家した。除夜の鐘を撞きに行くと親には言って(だから親は正月には帰宅するものと思っていた)、だがそのまま家にはもう帰らなかった。以後二十年臨済宗大本山大徳寺で修行僧の暮らし。最初は寺の小僧、それから雲水になる。二十一歳のときに、さすがに嫌になって一度「脱走」したらしいけれど。はは。
三十四歳で寺を出て渡米、大徳寺の雲水時代に知り合ったアメリカの数学者の紹介でハーバード大学神学部が受け入れてくれここで修士号、その後ペンシルベニア大学東洋学部で博士号を取得。プリンストン大学助教授、シンガポール大学教授を経て、現在は東京外国語大学教授。
興味がある人は、こちらにくわしいインタヴューがあるのでお読みください。上に書いた経歴は、ここからとったものだ。
今回『前衛仏教論』で面白いと思ったのは、霊能力についての考え方だった。町田さんの考えは、なるべく関わらない方がベターだというものだ。関われば関わるほど迷いは深くなる、ト。しかし霊的現象の存在を単純に否定しておられるわけでもない。仏陀自身は霊の存在については「無記」(ノーコメント)という立場だった。町田さんは霊的現象や超常現象というものを飛行機が離着陸のときに通り抜ける雲海にたとえておられる。実態は霧のようなものでありながら何百トンもある飛行機を揺らし衝撃を与える力をもつ。決して侮っていいようなものではない、と。
しかし、大切なことはそういう現象があるということではない。大切なことは雲海を抜けた上にある透明で澄んだ青空なのだ、と言われる。
そういうものかも知れない。
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