茂吉と戦争
今読んでいる『作歌四十年』から戦中の茂吉の歌を抜いてみる。
国のために直に捨てたる現身の命の霊を空しからしむな
神と共に進み進みて絶待に迫りて迫る包囲の大軍陣
敵軍の根拠の滅び徹底して大きアジアの暁明いたる
『寒雲』
大きなる勝鬨あげてもろともに迎ふる皇紀二千六百年
ひたぶるに命ささげしもののふをわが天皇は神としたまふ
おほきみのおほきまにまにみ民らが進むあゆみのおとをこそ聞け
大君の全けくもぞ統べたまふひとついきほひのくにの現実ぞ
(現実:うつつ)
天とほく南のくにに親しむとすめらみ軍はやも動きぬ
(軍:いくさ)
大君は神にしいませ永遠の平和をしぞみちびかせたまふ
(永遠:とことは・平和:たひらぎ)
あめつちにすめらみくには日に新たいよよ新たに栄ゆくものぞ
『のぼり路』
つらぬきて徹らむとするいきほひに碧眼奴国の悔をゆるさず
くに民のひとりびとりのやまと魂の炎とのぼる時をし知らむ
『いきほひ』
何なれや心おごれる老大の耄碌国を撃ちてしやまむ
「大東亜戦争」といふ日本語のひびき大きなるこの語感聴け
皇国の大臣東条の強魂をちいはやぶる神も嘉しとおぼさむ
(皇国:すめぐに・大臣:おとど)
神もゆるしたまはぬ敵を時もおかず打ちてしやまむの大詔勅
(敵:あた・大詔勅:おおみことのり)
大きみの統べたまふ陸海軍を無畏の軍とひたぶるおもふ
もろもろは声をかぎりにをたけびし十二月八日を常にこそおもへ
『とどろき』
写していてさすがにいやになった。こんな歌がまだまだ延々と延々と続くのである。これをいったいどう考えたらいいのか、正直わたしは途方にくれる。
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