モルガンお雪
モルガンお雪にちょっと興味があって『妖婦の伝説』三好徹(実業之日本社/2000)を読んだ。この本は、明治の新聞などで「毒婦」だの「妖婦」だのと講談調に書き立てられた女性を取り上げて、それぞれを八つの短篇にしたものである。
短篇の題と名前を全部あげてみよう。
夜嵐おきぬ(原田きぬ)
毒婦の伝説(鬼神のお松こと高橋お伝)
実説箱屋殺し(花井お梅)
黒き運命の矢(菅野すが)
虚栄の令嬢(千坂光子)
美貌に罪あり(植村千代子)
モルガンお雪(ユキ・モルガン)
妖婦歌子(下田歌子)
山田風太郎の明治小説でおなじみの登場人物もいれば、はじめて知る名前もある。短篇で短くまとめてあるために、やや背景の説明不足の感は否めないが、簡潔にそれぞれの人物や事件を知るには参考になる。
面白おかしく扇情的に取り扱われた女たちの実像を、出来る限り事実に即して明らかにしようという試みなので、どちらかといえばこの時代の新聞の悪辣さが浮き彫りになって、なかにはこれは女の方が可哀想だと思えるようなものもある。しかし、商売としての事件報道というのは昔も今も品のないものであるのは仕方がないだろう。まあ、新聞が全部「PHP」になったら偉大なる将軍様を讃える国みたいなもんだろうから、えげつない記事が大手を振っているのは逆に健全な証かもしれない。
ところで祇園の芸妓お雪はアメリカに渡ってモルガン財閥の一族になり、第二次大戦のとき京都を空襲から救うことに力を尽くしたと何かで読んでいたのだが、これはどうもあやしい。本書によれば、明治37年1月21日に横浜で結婚式を挙げ、アメリカに渡ったものの、そこは決して住みいいところではなく、結局ふたりはフランスに居を据えた。1915年にジョージ・デニソン・モルガンが死んだあとも一人ニースで暮らしていたようだ。しかしヨーロッパに戦雲が漂いはじめた1938年に日本に帰国している。となれば、お雪がモルガン家を動かして云々というのはどうも信憑性がないような気がするなあ。
お雪が死んだのは1963年5月18日、ネットで調べるとお墓は東福寺の同聚院にあるようだ。今度、散歩がてらに訪ねてみるか。
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