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2005/04/13

「コーラス」という映画

ガーデンシネマで「コーラス」を見た。

製作/ジャック・ペラン
監督・脚本・音楽/クリストフ・バラティエ

とてもいい映画だった。
おそらくは国立コンセルヴァトワール出身者。一流の音楽家としての成功を夢見ていた男、クレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)。いつかは自分の好きな音楽だけで生きていくんだ、いつかはきっと自分の才能が認められるはずだと、しがない音楽教師で身過ぎ世過ぎの数十年。気がつけば独り身の孤独な中年男である。頭だってもう禿げてしまった。ひとつの学校を解雇されるたびにだんだんとひどい場所に落ちてゆく。たどり着いたところが、その名も「池の底」という寄宿学校の舎監である。学校とは表向き、ありようは少年鑑別所で、反抗者は二週間も暗く狭い懲罰室にぶちこまれる。
校長は教育者を気取り、叙勲の運動こそ抜け目がないが、生徒のことなどこれっぽっちも考えてはいない。まるで強制収容所の所長と見まがうようないんちきな男である。そんなところで、音楽教師が荒んだ生徒の心をつかむためにはじめた合唱団だったのだが・・・

映画はフランスで大ヒットした。それは物語としての面白さもさることながら、ジャン=バティスト・モニエという少年の歌声の美しさによるところが大きいだろう。ほとんど予備知識なく見に行った映画だったので、この物語の子供側の主役(大人側の主役はもちろん音楽教師マチュー)が合唱団のなかでソロをとる場面で、突然止めようもなく涙があふれて、わがことながら驚いた。フランス語の歌詞の意味などほとんどわからないのに、澄んだその歌声が直にこちらの情動を刺激するのである。宗教のことはまったくこの映画には出てこないのだが、そのときわたしはカトリックのことを考えていた。的外れかもしれないけれど。

物語のはじめから、わたしたちにはマチューが無名の音楽教師で一生を終えるであろうことはほとんどわかっている。それはさびしいけれども、わたしたちの大半の人間にとって親しく共感をもって受け入れる自分との折り合いのつけ方でもある。
だから、映画の冒頭で、かれが見いだしたひとりの少年が、世界的な音楽家としてその才能を開花させたことが語られていることは、夢の実現であり上昇の方向性を意味してはいるが、それだけでは映画としては十分とは言えない。エピローグで語られるもうひとりの少年とマチューのふれあいこそが、マチューにとっての恩寵であり癒しであり赦しでもあったことが、わたしたちには感じられるし、このいわば大地に根付くような方向性が、映画のプロローグと照応して、深い感動と満足を与えてくれるのだと思うのだ。

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h)映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

 拙blogにコメントコメント有り難うございました。
 トラッシュバックつけさせて頂きました。
 コーラスは本当に素敵な映画でした。フランスらしいウィットにも富んでいて、見る人を温かくしてくれます。
 正岡子規はあまり知らないのですが、「日露戦争物語」という漫画作品に主役の秋山と同級生として正岡子規が描かれていて、面白そうな人物だったんだなぁという印象を持っています。
 かわうそくんにそんなところがあったなんて、勉強になりました。

投稿: 海音 | 2005/04/13 10:31

海音さん TBとコメントどうもありがとうございました。
いい映画を見るとどうしても誰かとそのことを話したくなりますよね。「コーラス」は久しぶりにそんな映画でした。
江川達也の「日露戦争物語」についてはたしか以前、朝日新聞の月曜日の書評でとりあげられていたような記憶があります。あの時代の人は面白いですね。
リンクを貼らせていただきます。これからもよろしく。

投稿: かわうそ亭 | 2005/04/13 15:37

はじめまして。TBさせてもらいました。

洞察の深い文章に感心しました。たしかに私たち平凡な人間は夢はもっていても、大半がマチューのように無名のまま一生を終えるだろう。だからこそ、彼の人生に親しく共感するのだ。彼が才能を見出した少年が世界的な成功を収めたことは、彼の夢の実現であり、心の慰め、恩寵、赦しであったということは、核心をついていると思います。
私は音楽が好きな割りに詳しくなく、曲目や作曲家について知識が無いのですが、「キリエ」を歌っていたことが印象に残りました。「キリエ・エレイソン」とはラテン語で神に赦しを請う言葉です。心がすさんでいたずらをするとはいえ、大人と違ってイノセントな少年たち。(校長のようにマチューの手柄を横取りして勲章を貰おうナンテ考えないのだから)その彼らがまっすぐに前を見詰めながら「神よ、赦したまえ」と歌っている。赦されなければならないのは、私たち大人である。彼らの心がすさんでしまったのも、全て大人たちの責任なのだから・・・

今後ともよろしくお願いします

投稿: ももママ | 2005/04/13 23:40

ももママさま はじめまして。
「キリエ・エレイソン」のこと、知りませんでした。なるほど、そういう意味なんだと知ると、そこにもいくつもの意味が重ねられているような気がしますね。とてもいいお話をありがとうございます。サイトにも伺いました。今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: かわうそ亭 | 2005/04/14 22:23

本当に他の生徒たちがその後どんな人生を送ったのか知りたくなりますよね。

投稿: いちご | 2012/10/09 04:13

いちごさま
いい映画でした。なつかしく当時を思い出しました。コメントをありがとうございました。

投稿: かわうそ亭 | 2012/10/09 18:20

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