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2005/08/02

イモリの黒焼、カワウソはいらんかね

高津の宮(祭神は仁徳天皇)の舞台の傍を、坂に随ひて西に下りたる南側に、古くより住みて、獣類虫類など、種々の黒焼を商ふ店あり、世に高津の黒焼屋として其名高し、商ふ中に居守の黒焼最も能く売れ行くと云へり、如何なる疾病に効能あるものにや
『大阪繁盛誌』宇田川文海編(1898)

まだ「イモリの金玉、数いくつ」の決着を見ないので(笑)(ここ)、イモリの本などぱらぱら見ていたら、大阪の高津(こうづ)に有名ないもりの黒焼屋があったということを発見。高津というのは賑やかな道頓堀からもほど近い街中だが、ここの高津西坂の下に二軒の黒焼屋があって商売を競っていたらしい。

元祖本家黒焼屋の津田黒焼舗と一切黒焼屋の高津黒焼惣本家鳥谷市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、どちらが元祖かちょっとわからぬが、とにかくどちらもいもりをはじめとして、虎足、縞蛇、ばい、蠑螺(さざえ)、山蟹、猪肝、蝉脱皮、泥亀頭、鼹手(もぐら)牛歯、蓮根、茄子、桃、南天賓などの黒焼を売っているのだ。
『大阪発見』織田作之助

このイモリの黒焼の製法と使用方法はいかなるものかと言いますと——、

「さ、ただのいもりを黒焼きにしたって、効くもんやない。ほんとうのいもりの黒焼きなら効く」
「ホントのいもりの黒焼きて、どんなもんでんねん」
「これは交尾しているいもりを使うねん。その最中のヤツを、無理やり左右に引き離して、別々に素焼きのつぼに入れて、これを蒸し焼きにする。焼き上げてからふたを取ると、山一つ越えてでも、その煙が一緒になるというぐらい、いもりというのは淫欲の強いもんや。その焼き上げたオスのいもりの粉を、自分につけて、メスのを相手にふりかける。そうした時に、初めて効くねん。ただのいもりの黒焼きをふりかけたかて、効くもんちゃうねん」
「ははあ、なるほど。そんなん、どこで売ってまっしゃろ」
「高津の黒焼き屋へ行て、ホンマのいもりの黒焼きをくれと言うたら、ちょっと高いかもしれんけど。これなら効き目がある」
『米朝ばなし——上方落語地図』

そら効くかもしれんが、そんな酷いことをして、むしろ、わたしはいもりの祟りの方が恐いような気がするぞ。(笑) (そういえば、いま読んでる『HARRY POTTER AND THE HALF-BLOOD PRINCE』にも、ラブ・ポーションが出てくるな。ネタバレになるからくわしいことは書けないけれど。)

ところがおかしいのがこの黒焼屋があるところの高津西坂の名前。現在は「くの字」にふたくだりの坂なんだが、当時は三つくだりと半分、つまり「みくだりはん」だったので、人々はこれを「縁切り坂」「離縁坂」と呼び、女たちは此処を通ることを避けたとか。まあ明治中期にいまのように改修して相合坂と名付けるのだが、どっちにしても黒焼屋のロケーションを意識しているような気がするなあ。(笑)

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さて、この高津の黒焼屋ですが、写真の「摂津名所図絵」の二枚の絵のちょうど真ん中あたりにご注目。なんとこれ、カワウソでありますよ、みなさん。写真にリンクしているFlickrに飛んで、どうぞ拡大画面(写真の上辺にある「ALL SIZES」をクリック)で確かめてくださいませ。
清水雅洋さんの『本心 小説「石門心学」』(文芸社)に、江戸時代の人が薬食いとしてカワウソを好んで食べていたと書いてあったが、こういう店で売っていたんですねえ。なんちゅうことをすんねん、まったく。まあ、むかしはカワウソは立派な害獣なんでしょうけど、それにしたってねえ。(笑)

以上、本日のネタはすべて『イモリと山椒魚の博物誌』碓井益雄(工作舍/1993)の拾い読みから。

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コメント

興味深く、しかも愉快な話が日本に沢山埋もれているんですね。
拡大して見た結果、胴や尾が細長いし、かわうその可能性大。かわうそを辞書でひくとOtterとなっていました。成る程、Otterなんですね。野生に何回か出くわし、動物園でも頻繁に見ます。水に浸かったフェレットやビーバーやプレリー ドッグにも似ている。遊び好きそうで、それでいて仲間を組んで皆でサルのエサを盗みに出かける。
あのカワユイ無垢な顔。かわうそ亭さんが、その家主と知って、かわうそ亭さんは、どうも敷居が高いのですが、勝手にリンクさせて頂きました。いいですか?

投稿: Nerdy | 2005/08/02 23:13

Nerdyさん ごぶさたしています。新しいサイトを始められたんですね。あとで、ご挨拶に伺います。
しかし、それにしても、otterなら「野生に何回か出くわし」というあたりが、さすがにニューヨークですねえ。(笑)わたしは動物園(一番間近で見ることができるのは多分大阪の海遊館)でしか見たことがない。やはり、日本ではもう絶滅したんでしょうね。食用にしてたなんてウソみたいでしょ。江戸中期の京都の漢方医、山脇東洋は人体の解剖が禁じられていたので、50匹ばかりカワウソを解剖して研究したんだそうです。人体に近いという俗説と、まあ、いくらでも手に入ったからんんでしょうね。
あ、リンクどうも光栄です。わたしもリンクさせていただきました。

投稿: かわうそ亭 | 2005/08/03 09:18

1978年1月に私の祖父である鳥谷市兵衛が旅行先(勝浦温泉)で急逝し、江戸時代から続いた高津黒焼屋は廃業しました。高津黒焼屋がこれほど歴史があることは、インターネットを通じて知りました。
私が幼少の頃、毎年春先に滋賀県から大きな頭陀袋を持った男性2名が来たのを覚えています。中身はシマヘビ・ヤマカガシです。今から考えると、そのようなものを電車に乗せて運ぶことが出来たのだろうかと考えてしまいます。
木のリンゴ箱に入った蛇を、川に流すと縁起が良いということで、2匹(雄雌らしい)セットにして紙箱に入れ、宗右衛門町や道頓堀の飲食店に売っていました。(その当時で数千円だったと思います。)
道楽のような商売をしていた祖父ですが、私が幼少の頃には、天王寺動物園に連れて行ってくれた後に、アイスクリーム(ウエハースとさくらんぼがついていた)を食べさせてくれたり、家にいるときは双六をしてくれたことも覚えています。
小唄・三味線をこよなく愛した鳥谷市兵衛爺ちゃん。私にとっては最高の祖父です。

投稿: 鳥谷泰史 | 2015/04/02 23:10

いや、驚きました。最後の鳥谷市兵衛さんをこのようなかたちでご紹介いただくとは。そうですか、黒焼屋のご商売はずっと近年まで続いていたんですねえ。ありがとうございました。

投稿: かわうそ亭 | 2015/04/04 19:35

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『東大オタク学講座』第十二講 愛と誠の変態講座 http://netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/books/otakusemi/No12.html イモリの黒焼きが精力増強の薬に用いられるのも、水中で腹と腹を向かい 合わせて、人間と同じように正常位で交尾する動物だからなんです。 ×精力増強の薬 ○媚薬 または 惚れ薬 ×水中で腹と腹を向かい合わせて、人間と同じように正常位で交尾する動物だから ○ヤモリの血を身体に塗られた女性が浮気をすると塗られた血の色が消えるとい... [続きを読む]

受信: 2008/04/24 21:04

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