池澤訳『星の王子さま』
『星の王子さま』の新訳がたくさん出ている。今年で著作権が切れたことで、新しい出版が可能になったということらしい。背景は「京の昼寝」さんのブログにくわしい。【ここ】
わたしはこれまでの内藤訳と今度の新訳とが、どんな風に違うのかとか、新訳がそれぞれにどう違うのか、なんてことにはあまり興味はない。ただ単に、池澤夏樹さんが翻訳されるというので、「ああ、きっとそれは素晴らしい本になるだろうな」と思っていただけである。
『星の王子さま』サンテグジュペリ/池澤夏樹訳(集英社文庫/2005)を読んでみた感想をいうと、想像以上に素晴らしかった、ということになる。
こういう言い方は、これまでお世話になってきた旧訳の内藤濯に対して礼を失することになるかもしれないが、今回の池澤訳『星の王子さま』で、はじめてわたしはサンテックスがこのオハナシを書いたその源泉にふれたような気がしたな。
これから、はじめて『星の王子さま』を読む人には、わたしは少なくとも岩波の内藤訳よりはこの集英社版の池澤訳を推薦すると思う。ただし文庫版は挿し絵がモノクロでさみしいので、どうせ買うならハードカバーの方がいいだろう。なお、倉橋由美子の『新訳 星の王子さま』(宝島社/2005)も買って読んでみたが、感心しなかった。
池澤訳から——
「どうすれば星を所有することができるの?」
「星は誰のものだ?」とビジネスマンは少し腹を立てて聞き返した。
「知らない。誰のものでもない」
「ならば私のものだ。最初に考えついたのは私だから」
「それだけで?」
「そうさ。誰のものでもないダイヤモンドを見つけたら、それはきみのものだ。持ち主のない島を見つけたら、それはきみのものだ。新しいアイディアを見つけたら特許を取る。そのアイディアはきみのものになる。星が私のものなのは、これまで誰もそれを所有するという考えに至らなかったからさ」
「それはそうだけど」と王子さまは言った。「それで、星をどうするの?」
「運用するのさ」とビジネスマンは答えた。
内藤濯の著作権継承者である内藤初穂さんの「星の王子さま」というタイトルを新訳につかうならば法的手段に訴えるなんて当初の動きは、なんとも見苦しいもので、このくだりをすぐに思い出した。ただし、それと今回の本の評価はまったく関係がない。
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