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2005/09/23

『わが手に雨を』グレッグ・ルッカ


『わが手に雨を』グレッグ・ルッカ/佐々田雅子訳(文芸春秋/2004)
グレッグ・ルッカは『奪還者』しか読んでいないが、そのうち全作品を読みたいと思っている作家のひとり。雨の日や晩秋の休日にはハードボイルド小説は孤独な心の友である。

本書の主人公ミム・ブラッカは、探偵でも警官でもない。ワールド・ツアーを行うようなロックグループの女性ギタリストだ。アルコール依存症の問題を抱えている。貧乏白人の両親のもとに生まれ、子供のときに酔っぱらった父親が母親をピックアップ・トラックで轢き殺したために父親が殺人罪で収監され、兄と二人、里子にだされたという過去をもつ。酒のトラブルでバンドから一時休業を言い渡され、故郷のポートランドに帰ってくるところから物語が始まる。帰宅早々トラブルに巻き込まれ、兄からは憎い父親が出所したと聞かされる——

ハードボイルドの定型は、卑しき街をゆく高潔の騎士物語だが、本書の場合は、いささか勝手が違う。まず主人公は、単純にいえば狙われた獲物である。暴力にさらされ、無力をかみしめ、怯え、言いなりになる。さらに酒に手を出すと、意識がなくなるまで酔っぱらうという破滅型の人間で、主人公はほんとうは助けを必要としている。高潔な騎士どころか一番ちゃんとしていない人間なのである。だから、この小説はもどかしい。(ええい、うなるほど金があるのに、なんでプロのセキュリティを雇わんのだ)
しかし、やはり、本書はハードボイルドの定型をかたくなに守っているとも言える。それは人はやり直すことができる、もし「卑しき街をゆく高潔の騎士」と同じような気概をもつことができれば、というテーマなのだと思う。
派手なアクションや、大仕掛けなどんでん返しもない。本書を読んで得られるカタルシスはじわりときいてくる風のものである。ロックミュージックとハードボイルドの相性は結構いいようだ。

ところで、本書についている北上次郎氏の解説は、およそあほくさい、無内容なもので、本書の値打ちをむしろ下げるだけだ。なんで、こんなものをわざわざ単行本につけなきゃならんのか。販促、営業上の政治的な取引でもあるのか。まったくくだらない。あんまり読者を馬鹿にしない方がいい。
ひさしぶりに佐々田雅子さんのいい翻訳を堪能したあとだけに、げんなりした。

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コメント

かわうそ亭さんが「あとがき」に怒っちゃうのはとっても珍しい。私も某氏の「あとがき」で3度も立て続けにものすごくアタマに来たことがあります。某氏は苗字に「つ」がつく人で、漢字にすると「坪」の字なんですが(笑)、勝手ながらその人のあとがきにだけはアレルギーができてしまいました。ところで村上春樹の短篇集の「品川猿」、かわうそ亭さんのご説明を拝見するととても面白そうな感じですね。

投稿: 屁爆弾 | 2005/09/25 20:14

やあ、こんばんわ。だって、ほんと、くっだらない文章なんだもん。(笑)
それに、文庫本ならそんなに怒らないのね。単行本ってのは、やっぱり、きちんとその作品だけで世に送り出してやるべきだと思うんだなあ。単行本は作家あるいは訳者にとってはCDアルバムみたいなものでしょ。ミュージシャンの新しいアルバムに、解説者の歌がついてたらただのアホーじゃん。それと同じではあるまいかト。
村上春樹さんの本については注意深く説明をさけておりますので、どうぞ閑なときに新鮮な気持ちでお読みくださいませ。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2005/09/25 21:33

あんな中途半端なものにTBをありがとうございました。
ルッカのアティカスシリーズは相当面白いらしいです。
今から読むのを楽しみにしています。

投稿: 有坂 | 2005/09/26 23:58

いえいえ、とんでもない。わざわざコメントありがとうございました。ボディガードのシリーズは『奪回者』を読みましたが、激しい銃撃戦などの描写もありながら、絵空事とは思えないような生々しさがあって好感を持ちました。

投稿: かわうそ亭 | 2005/09/27 08:32

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