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2005/09/21

スコットランドの漱石

1902年の秋、帰国を間近に控えた夏目漱石は、ジョン・ヘンリー・ディクソンという人物の招待でスコットランドのピトロクリを訪れた。このスコットランド体験が、漱石の文学や思想に決定的な影響を与えたのではないかという説がある。
『スコットランドの漱石』多胡吉郎(文春新書/2004)は、これまでの漱石の評伝において、あまり重大視されることのなかったこのスコットランド旅行に焦点を当てて、その説を展開したものだ。じつに興味深いし、専門家の意見も聞いてみたいが、かなりいい線を行っているのではないかと素人的には思う。PICT0007.JPGところで、本書のなかになぜかグレン・グールドが登場する。
じつは、グールドは漱石の『草枕』を「二十世紀の小説の最高傑作の一つ」と評していたんだそうな。ラジオ番組で英訳の『草枕』の第一章を朗読したこともあるし、1982年に五十歳で死んだときに枕元にあったのは、聖書と『草枕』であったとか。へえ、でありますね。
グールドと『草枕』を著者はスコットランドでつないで解説している。グールドの母親はスコットランド系。グレンという言葉はスコットランドのゲール語で谷を意味する。しかし、著者が言いたいのはそういう血脈的なことよりも、スコットランドの自然が漱石に与えたであろう影響を「不人情」——英語訳「detachment」——から説いたものだ。この本は面白い。

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コメント

この欄で興味を惹かれ、早速『スコットランドの漱石』を読みました。
漱石への思いとスコットランドへの思いが重なった、小説仕立てではないが一種の”Faction”(Fact + Fiction)として読みました。実際に漱石と、漱石をピトロクリに招待したディクスンとの「会話」などが想像再現されていて、なかなか楽しい。「スコットランドの漱石」という着眼は面白く、著者の推測は大筋で間違っていないように思います。
ディーテイルが好きな私は、岩倉具視が「オールド・パー」の日本でのPRに一役買っていたかも知れないという話に飛びつきました。岩倉が持ち帰ったウイスキーが後に田中角栄のお気に入りになったなんて、ちょっと面白いじゃないですか。
ロンドンの漱石は、末延芳晴『夏目金之助ロンドンに狂せり』(青土社)を読んだばかり(これも「かわうそ亭」さんの書評で知ったのでしたっけ?)。こちらもなかなかの力作です。
漱石については江藤淳『漱石とその時代』(全5部、未完、新潮社)が圧巻ですが、江藤は漱石その人を徹底的に読み込み、末延は明治の他の欧州渡航者の経験と比較し、多胡は自らのスコットランド旅行を漱石に重ねる。いずれも漱石像に迫るものがありますが、これだけ多くの人の関心を集めて多面的に語られるのはやはり、漱石が明治以来の日本の知識人の苦悩を代表しているからでしょう。その苦悩は、残念ながら今日も克服されていない。

我善坊

投稿: 我善坊 | 2005/09/29 15:39

こんばんわ。『夏目金之助ロンドンに狂せり』おもしろそうですね。わたしも読んでみよう。
そういえば、オールド・パーというのはスコットランドの実在の人物だと田村隆一が書いていました。80歳ではじめて結婚。その最初の妻と死別したので120歳でまた再婚、152歳のときにチャールズ1世に呼ばれてロンドンに行った。宮廷にはそのときルーベンスとファン・アイクがいて例のボトルの肖像画はルーベンス筆。墓はウェストミンスター寺院のミルトン、テニスンなどと並んでいて、いわくパー爺さんの人生そのものが詩である——
どうもねえ、田村隆一さんですからいささか眉唾ですが。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2005/09/29 22:39

スコットランドという文字が目に飛び込んできました

そうですか グレングールドは漱石ファンだったのですか
グレングールドの演奏はいいですよね 大好きです

スコットランドの貴族によるクリアランス迫害でカナダへ移住した人が多いので
確かに確かにそうなんでしょうね
面白そうです、いつか絶対読みます

投稿: Ninotchka | 2005/10/10 06:20

Ninotchkaさん こんにちわ。「イギリス研修医生活」、たのしく拝見しています。でも、今回の録音は、恥ずかしながら、ほとんど聞き取れませんでした。(泣)
お忙しいようですが、マイペースで更新してください。では、また。

投稿: かわうそ亭 | 2005/10/10 10:08

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