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2005/09/27

メゾン・ド・ヒミコ

ベント・ハーメル監督の「卵の番人」というノルウェー映画のことが、前からなんかひかかっていたのだが、最近、屁爆弾さんのブログ(ここ)で、この映画についてちょっとした会話があって、ああ、なるほどと、やっと腑に落ちた。屁爆弾さん曰く、

あんなに老いて初めて自分が卵の殻の中にいたことに気づくあの弟は結果的に新しい卵に追い出されてしまうわけですが、老いてから、自分の巣に「定員オーバー」を宣告されることの残酷さ。
おもわず、ぽんと膝を打ちましたね。あ、そうか、そうだよね。

さて、書こうと思ったのは「卵の番人」の話ではなくて、じつは「メゾン・ド・ヒミコ」のことだった。
しかし、この映画もある意味では卵の番人のオハナシ。
ここで卵というのは、シェルターと言ってもいいし、もっと単純に居場所と言ってもいい。
自分の居場所というのは誰にとっても、生きてゆく上でのもっとも大切な要素だと思うが、ことにそれが老いたゲイの場合は切実だろう。
メゾン・ド・ヒミコは年老いたゲイのための老人ホーム。オーナーは、引退した銀座の伝説的なゲイバーのママ卑弥呼である。これを舞踏家の田中泯が演じるのだが、ただそこにいるだけで、圧倒的な存在感がある。(末期癌という役柄を鍛え上げた身体が裏切っているが、それはそれでいい。ファンタジーである)
PICT0003.JPG

ホームの住民であるゲイたちは、陽気さと哀しみの両方を同時にもつ不思議な人々だ。自分は自分の気持ちに正直に生きてきたのだという誇り。どうしても女の服が着たくて仕方のなかった自分、どうしても同性にしか性的な関心を持てなかった自分、そういう自分を社会生活の中では隠して生きて来ざるをえなかったゲイの人々が、寄り添って、老いという未知の領域を共に生きて行こうとする。ゲイであることでうける差別ははじめから覚悟のことだったかもしれないが、自分がゲイとしてしか生きられないことを告げたことによって、おそらく両親や兄弟姉妹を傷つけたこともあっただろう。妻や自分の子供を得てから、自分がゲイであることを明らかにした人もいるだろう。
だから、お盆に燈明を灯し、茄子と胡瓜の牛馬をつくり、セピア色した家族写真の写真立てをいくつもいくつも並べて行く老人たちの姿は、切ない。
オダギリジョーは、美しいゲイの若者を演じてすっかりはまっているし、柴咲コウは、この映画では眉間にしわを寄せて相手を睨みつけるブス顔を強調してこれまた出色。おかしくてやがて哀しいゲイの皆さんもそれぞれ達者な役者やホンモノのオカマが演じて(いやホンモノの場合は演じてはいなくてそのままで、これはこれで味があります)とてもいい映画に仕上がっているのではないでしょうか。
平日のお昼のプログラムにしては、観客もそこそこで、やはり話題になっているのかな。

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コメント

こんにちは。ブログのご紹介を頂戴してありがとうございます。死はむろんですが、かわうそ亭さんがおっしゃるように、老いというのは誰にとっても未知領域なんですよね。70歳の老いを1年生きたら次は71歳の老いがやってくる。一年ごとに新しい障害が追加されるということ。これは大変なことなんだろうなと思う。今の社会現象からしても「老い」を扱った映画は今後もっと増えてきそうですね。かわうそ亭さんの感想を拝見するとちょっと興味がわいてきます。でも、『メゾン・ド・ヒミコ』の題名って何?もしかしてホームの名称なのかな。そうそう、柴咲コウ。この人の顔って喉ちんこみたい。以前『着信アリ』の予告編で恐怖顔のどアップを映画館で見ちゃったのが影響してるかも(笑)。

投稿: 屁爆弾 | 2005/09/28 14:25

メゾン・ド・ヒミコは老人ホームの名前ね。
こちらにプロモーション用のサイトがあります。flashの画像がなかなかいい感じで、映画の雰囲気をうまく伝えています。ご参考まで。
http://himiko-movie.com/

投稿: かわうそ亭 | 2005/09/28 19:23

僕もこの映画見ました。
「末期癌という役柄を鍛え上げた身体が裏切っている」
確かに田中泯さん、そうでしたね(笑)。
それ以外にも、ある意味戦略的にファンタジー性を
前面に押し出しているような演出が印象に残りました。

TBさせていただきました。
この映画の事について少しずつ
連載で語り合うコーナーを設けました。
よかったら覗いてみてください。

投稿: akaboshi07 | 2005/09/28 23:15

コメントとTBどうもありがとうございました。観た後で消化できないものが残っているのは、いい映画なのだと思います。わたしが、どうも気になって仕方がないのは、笑われるかもしれませんが、じつは沙織の母親の帽子。あの写真なんかヘンなんです。なにがおかしいのかよくわからないのですが、直感的にあそこになにか不可解なものがあるような気がして仕方がない。

投稿: かわうそ亭 | 2005/09/29 22:08

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