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2005/10/15

彼方なる歌に耳を澄ませよ

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』アリステア・マクラウド/中野恵津子訳(新潮社/2005)の最後のあたりを夜の電車で読んでいた。これまでも、通勤電車の中で本を読んでいて、目頭が熱くなり、あわてて吊り広告に目をやって涙がこぼれるのを必死で堪える(いい年をしたおっさんが電車の中でぼろぼろ泣いていたんじゃみっともないからね)なんて経験は数え切れないが、今回はまいった。
この本、前日から、比較的、淡々と読み進めてきたのである。以前に読んだ、短編集の『冬の犬』のエピソードを記憶の底からさぐってみたり、あいかわらず地味だけどうまい作家だなあなんてぼんやり思いながら。
ところが、べつに特別な仕掛けがあるわけでもなく、そこだけ取り出せばなんてこともない場面で、一気にそれまでに積み重ねたきたものがはじけた。突然こころが激しく揺り動かされた。涙を堪えるなんてもんじゃない。つきあげてくるエモーショナルなものをどうやって受け止めればいいのか、鳴咽がもれるのをどうやってごまかすか、ほとんどパニックになってしまったのであります。幸いにも、さほど混雑した車内ではなかったので助かったが、これが満員の車内だったら、「号泣オジサン」とかなんとか呼ばれるところであった。くわばら、くわばら。(笑)
ということで、すみませんが書評のようなものはとても書けそうにありませんので、以下にとても素敵な書評のリンクを貼っておきます。
まあ、わたし的には、いまのところ本年度のベストですね。

豊崎由美さんの書評(ここ)

池澤夏樹さんの書評(ここ)

すみ&にえ「ほんやく本のススメ」の書評(ここ)

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b)書評」カテゴリの記事

コメント

ま~、そうでしたか。でもこの作品ってホント、なにも説明しない、なにも書かないってのが正解なんじゃないかと思いました。読まなきゃなんにもわかりませんって(笑) そうなんですよね、私たちも最後のほうまではわりと淡々と、あ、短篇のあれに似てるなこの部分、とか、思いながら読んでたんですよね。それが最後にはもう、気づかないうちに溜まりこんでいた感情?のようなものが一気に溢れ出して。生きているあいだにこういう本が読めるって本当に幸せですよね。なんて、ああ、なんか語っているオバカな私たち(笑)

投稿: すみ&にえ | 2005/10/16 01:18

いえ、いえ、この作品の魅力がとてもよく伝わってきます。
わたしの場合、感情の堰がきれたのは、おばあちゃんを訪ねていった先で古い歌を歌ってあげる場面。あなたの歌を聴いていると昔、知ってた人を思い出すわ、その人ほどじゃないけどあなたもとても上手ね、というところで、どーんときてしまいました。いい小説でしたねえ、ほんとうに。

投稿: かわうそ亭 | 2005/10/17 09:23

早速読みました。
ところどころ胸が熱くなりながら終盤まで進み
最後ちかくで泣いてしまいました。

投稿: mimo | 2005/10/22 22:25

こんばんわ。よかったでしょ。声高に語らない人の方が深く胸を打ちますよね。
マクラウドの短編集は翻訳で2冊出ていますが、わたしはそのうちの一冊(『冬の犬』)しか読んでないので、この際、読んでない作品と、一回読んだ短編の再読をかねて、英語で読んでみようと思っています。PBで『Island』(Vintage Books)を取り寄せました、これからゆっくり読むつもりですが、端正な英語で比較的読みやすい気がします。430ページ、16短編という構成です。
ではまた。

投稿: かわうそ亭 | 2005/10/22 23:26

私も英語はどうなのかなぁ…と気になっていました。迷うなぁ…

投稿: mimo | 2005/10/23 00:13

こんにちは。
トラックバックを入れさせていただきました。
よろしくお願いします。

投稿: shigeyuki | 2005/11/11 22:44

こんにちわ。
TB、コメントありがとうございました。そちらにもお伺い致します。

投稿: かわうそ亭 | 2005/11/11 22:50

コメントありがとうございます。
この作者の短編は、まだ未読なので
早速読みたいと思います。
また遊びに来ます・・・では。

投稿: tamao | 2006/03/06 22:29

こちらこそ。今後ともどうぞよろしく。

投稿: かわうそ亭 | 2006/03/06 22:46

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受信: 2005/10/29 07:22

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「彼方なる歌に耳を澄ませよ」 アリステア・マクラウド著  18世紀末にスコットランドからカナダへ渡った移民、キャラム・ルーアの子孫の物語。語り手は、キャラム・ルーアから6世代後の裕福な歯科医である。物語は、その主人公がアルコール中毒で死を待つばかりの兄を訪ねるところから始まる。  しかし、幾つのエピソードを重ねて語られてゆくこの小説のあらすじを書くことは、あまり意味がなさそうだ。この物語の核となるのは、惨めな�... [続きを読む]

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