遠い森で二千の樹を切り倒す
先月の25日、米国防省は2003年のイラク侵攻以来の米軍の戦死者の累計が二千人に達したと発表した。朝の通勤はiPodでBBCやABCやCNNのPodcastを聴くのが習いになっているのだが(便利な世の中だ)このニューズを聴きながら、しかしイラク人の死についてはさほど声高に語られることはないのだなという皮肉な思いを抱いたものだ。まあ、月並みな感想ではあるけれど。
「暗いニュースリンク」の11月7日のエントリーは、この米軍の戦死者をめぐる話だった。【ここ】
米ABC放送の人気法廷ドラマ『ボストン・リーガル』が、11月1日放送分できわめて政治的なメッセージをオンエアしている。紹介されているリンクをたどると、ビデオクリップで法廷シーンの弁論を見ることも出来る。直接的な感想ではないので、顰蹙を買うかもしれないが、わたしの印象に残ったのは二千人の死者の表現だった。
メディアがこの戦争をきちんととりあげていないという弁論に対して、「ポイントがずれているのではないかね?」と判事が口をはさむと、弁護士が猛然と反論する箇所です。
二千人が死んでいるのに誰も知らないんだ、という内容ですが、ここの台詞は次のようなもの。
"I am not off the point!" Shore replied. "We've had 2000 American trees fall in that forest over there and we don't even know it! Not really. But maybe we don't want to know about our children dying. So lucky for us this war isn't really being televised. We're not seeing images of soldiers dying in the arms of their comrades. Being blown apart in the streets of Baghdad. But they are, by the thousands! And all the American public wants to concern itself with is whether Brad and Angelina are a couple.二千の樹々が彼方の森で倒されているというイメージは、心に響くものがある。誰も見ず聞いていないところで起こるできごとは、世界にたしかに存在しているとたしかに言えるのだろうか、という問いを連想したりする。
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コメント
経済通が進んでするように「二千の樹を切り倒す」経済効果は如何程になるのでしょう?
知らないところで切り倒され、その恩恵に与っていることは間々あることです。それにしても、これほどまでに執拗に強行された限りは、充分に算盤が弾かれているのでしょう。
敢えてこしらえられた骸の上に暮らしているようで、居心地が悪いです。
投稿: pfaelzerwein | 2005/11/11 15:14
「American trees」とは美辞麗句の世界ですが、皮肉な言い方を許してもらえば、イラクに志願した兵士のかなりの部分は、グリーンカード・ソルジャーだといいますよね。ブッシュの「対テロ戦争」に従軍すれば米国の市民権が得られる。家族に米国籍をあたえるために軍隊に入る若者もいるわけで、そういうもんよ、と言えばそれまでですが、嫌な戦争です。
投稿: かわうそ亭 | 2005/11/11 21:29