ぼくの妹
内閣府が毎年行っている「心の輪を広げる体験作文」(ここ)のうち各部門の佳作以上が冊子になって発行されている。ごく短いものだし、政府の広報活動なんだから、いっそのことウェブにも載せればもっと多くの人が目にすることもできるのにと思うが、上記の内閣府のサイトにも作文そのものは出てはいないようだ。
実は、素敵なものがあったので、どこかに掲載されていれば、リンクを貼ろうと思ったのだ。
優秀作ではなく佳作だから、もしマスメディアへの転載があっても、こぼれてしまうかもしれない。しかし、とてもいい作文なんだよね。もちろん、わたしになにがわかるかと問われれば一言もない。ただ一人の親として、何度も読んで心を動かされたとだけ書いておく。ということで、みなさんもぜひご一読を。(原文には都道府県と具体的な小学校の名前がありますがそこだけ外しました)
小学生部門 ◎佳作ぼくの妹 小学校四年 長谷川瞬
ぼくには、二つ下の小学二年生の妹がいます。妹は、体の中のせん色体の一本が、ぼく達より一本多いと、お母さんから聞きました。その時、ぼくは、不思ぎに思いました。妹はぼくより、歩くのがおそかったし、七才の今も、話ができないので、ぼく達家族と会話もできません。けれども、妹は、自分の気持を、手や顔の表情で教えてくれます。例えばおなかがすいた時は、左手をお皿にして、右手で、はしを持つまねをして、合図をしてくれます。ごはんを食べている時に、おいしいなぁと思ったら、首を少しかたむけ、右手の人差し指を、ほっぺに当てて教えてくれます。
そして、妹は、色々な物に、きょう味があるので、ぼくのまねをよくします。だから、お母さんは、
「妹は、いい事も悪い事もするので、悪い事はしないで」
と言います。ぼくが学校で使っているランドセルを、かたにかけたり、ヘルメットをかぶって遊んだりするので、妹は、ぼくといっしょの学校に、行きたかったのかなと思う時があります。
また、大事な物も勝手に、さわったりするので、ぼくが使おうと思うと、大事な物がなくなっている時があります。必死にさがして見つからない時は、妹に聞くと、ポケットの中から、出してきたり、かばんの中から、とり出して来たりして、思わぬ所から見つかる事があります。そんな時は、はらが立つけど思わず笑ってしまう事もあります。
外へ出かけた時は、いつも走って行ってしまうので、必ずお母さんは、手をつないでいます。時々、お母さんが、妹を見ていられない時は、ぼくに見ててね。と言うので、ぼくは、妹と手をつないで面どうを見ます。たまに(面どくさいなぁ。ぼくだって、遊びたいのに)と思う時があります。けれども、ぼくの妹だから、しょうがないのかなと思います。
ある時、公園で遊んでいたら、一人の男の子が、妹に向かって
「こいつ変なやつ。何もしゃべらん」
と言いました。
「だれの妹やと思っとるんや。ぼくの妹だぞ。病気だからしょうがないだろ」
と言うと、男の子は
「病気なら、死ねばいいのに」
と言われ、(ぼくの大事な妹なのに。同じ人間に生まれて来たのに、どうして、そんな事を言われなければ、いけないのか)と思い、とても悲しい気持ちとくやしい気持ちになりました。家に帰ってから、お母さんに、その事の話をすると
「瞬ありがとね。妹を守ってくれて」
と言って、悲しそうな顔をしていました。
妹と生活している中で、他の人が妹の事をじろじろと見たり、いやなことを平気で言ったりするけど、ぼくにとってはたった一人の妹で、大切な妹です。ぼくが、言葉を教えてあげて、いつか、ぼくと会話ができることを望んでいます。
| 固定リンク
「j)その他」カテゴリの記事
- ソングライター、カズオ・イシグロ(2015.07.07)
- オーディオのこと(2015.06.24)
- 読書灯のこと(2014.09.25)
- 恋の奴隷考(2014.04.09)
- 千本の記事(2014.03.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
はじめまして。これまでもちょこちょこおじゃましてましたが初めてのコメントです。
すてきな作文です。
私は今グループホームの世話人として、知的障害者といっしょに生活しているので、「ぼく」の思いがとてもうれしく思います。
投稿: kakakai | 2005/12/15 00:03
こんばんわ。コメントどうもありがとうございました。kakakai さんのブログの方にも、ゆっくりおじゃましたいと思います。
投稿: かわうそ亭 | 2005/12/15 00:17
読み終わり、涙が止まりませんでした。ご紹介いただきありがとうございました。
それにしても、ハンデを持った子を見て、
「病気なら、死ねばいいのに」
としか言えない子供が、大日本国の大人たちの教育の成果なら、こんな国は地上から消えたほうがましです。
投稿: renqing | 2005/12/18 22:38
こんばんわ。コメントありがとうございました。
お母さんが、ありがとうねと瞬くんに言い「かなしそうな顔をして」いた、というところで、何回読んでも涙がこぼれる。
妹がご飯をたべて「おいしいね」という意味を伝えるボディランゲージを家族のみなさんが(当然とは言え)共有されているところもいいですよね。
投稿: かわうそ亭 | 2005/12/18 23:13
同感です。付け加えれば、
「思わぬ所から見つかる事があります。そんな時は、はらが立つけど思わず笑ってしまう事もあります。」
と言える男の子は、この年齢にして人間としての余裕を感じます。
それに比べ、もう一人のクソガキ(おっと失礼-_-;)は、張り倒さないといけません。理非曲直の判断がつかないガキには、大人はそうやって教育すべきでもあります。
投稿: renqing | 2005/12/18 23:55
ははは、異議なし!
投稿: かわうそ亭 | 2005/12/19 22:45