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2006/01/27

「はてブ」であなたもスパイマスター

「はてなのブクマ」について書こうと思うのだが、どうもうまく考えがまとまらない。
たぶん、自分自身の足元が定まらないからだろう。
実際には面白くてハマってしまっているのだが、これは不毛だなあ、という思いも消えないのだ。まあ、ハマってしまうものというのは、もともとそんなものかも知れない。

「はてなのブクマ」を使っておられない方は、例としてわたしのものを見ていただければと思います。【獺亭のウェブ付箋】

これ、どんな風に使うかというと、ウェブ上で何か面白い情報を見つけたら、とりあえずなんでもいいからボタンを押してこの「はてなのブクマ」に放り込んでいくのですね。なんだそれなら、自分のパソコンのブラウザーにブックマークがあるじゃん、そんなこと前からやってるよ、と思われるかもしれないが、このサービスのミソは、自分がこつこつ情報を集めるということ以外にも、ウェブ上にみんなのブックマークが公開されているので、他の人が面白いと思って集めた情報を、らくらく頂戴できるという仕組みにあります。まあ言えば、情報のピンはねみたいなものか。むしろ、こちらの方が主流だと思えば間違いがない。(各人のブックマークを共有するのでこれをソーシャル・ブックマークと呼ぶ)

はてなの場合はこれが簡単にできることに加えて、規模が大きいことで、個人が行うウェブ上の情報収集が劇的に変化します。大げさに言えば、量が「質」に転化する瞬間を目撃したような気分を味わえるのですね。(これが面白いと感じる最大の理由だと思う)

この「はてなのブクマ」は、たとえて言えば、自分が諜報組織のスパイマスターあるいは情報分析官になったようなものだと言うとわかりやすいかも知れない。重要なことは、あなた自身が現場で(つまりネットサーフィンして)情報を集めることではなくて、どのエージェントが使える奴なのかを知っておくことなんですね。
「はてなのブクマ」では、「お、この人、面白い情報を集めてるぞ」というのを見つけたら、その人のタイトルの横にあるドアのアイコンを押してやると、その人が毎日せっせと集めている情報が、あっという間に全部取り込める仕掛けになっています。
はてなでは、これを「お気に入りユーザー」と呼ぶのですが、自分の好きなようにお気に入りユーザーに入れたり、外したりできるのですね。つまり、さきほどのスパイのたとえで言えば、好きなようにエージェントを雇い入れたり、クビにしたりできるのであります。

ところがだ、よく考えて見ればわかるけれど、このスパイマスターとヒラのエージェントの関係は、たまたまわたしから見たら、あたかもわたしがスパイマスターでいろんなエージェントを配下にして情報収集をしているような形ですが、それぞれのエージェントのみなさんも同じように、だれかをエージェントにして情報収集を行っているスパイマスターなのであります。つまり、鳥瞰図でみると、ほとんど全員がだれかを使って情報収集をしている諜報網という構図になる。これは典型的なネットワーク型の組織ですよね。でも、主観的には、あくまでわたしがトップなんですな。この錯覚(スパイマスターになって有能なスパイが集めてくる情報を最終的に分析し評価してる)が滑稽なんだけど、なんか楽しいのね。

しかし、実際にこのお気に入りユーザーに数人のヘビー級の情報収集家(一日数万件のアクセスがあるようなブログをアルファー・ブログなんて言い方をしますが、はてなのブクマの世界でもアルファー・クリッパーと呼ばれる大物が何人もいらっしゃるらしい(笑))を選ぶと、とんでもない量の情報が押し寄せることになります。まあ、自分のパソコンの中に来るのではなくて、あくまでも「はてな」のサーバーの中に溜まるだけですから、鷹揚に、わたしは上澄みだけをいただくわ、と言いながらつまみ食いをすればよろしいのですが、いささかうんざりするのも事実であります。
また、そこに集まる情報というのも、結局はお互いの「スパイマスター」ごっこですから、大半の情報もループになってしまっているし、とくにブログの記事というのは自己言及型のものが多いので、情報も偏ったものになっている。結局、ほんとうに面白いネタはどこにあんねん!ということになるのでありますね。

ということで、状況はごっこならぬ本物の諜報組織の悩みに近くなる。

これは非常に単純な原理であって、情報を集めれば集めるほど、集めた情報に意味を見いだすのが難しくなるということである。一九九九年の七月に、上院情報監視委員会の民主党側の上席委員を務めていたボブ・ケリーは、上院本会議のスピーチで、「問題は干草の山の中から一本の針を探すことが難しいのではなく、その干し草の山がどんどん大きくなって探す作業が困難になっていること」だと言っている。
『チャター』パトリック・ラーデン・キーフ/冷泉彰彦訳(日本放送出版協会/2005)

この『チャター』は副題を「全世界盗聴網が監視するテロと日常」という、なかなか興味深い本です。この本の知見と、「はてなのブクマ」をめぐって、もう少し話を続けようと思っています。
――ということでこの項、続く。

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