メイド・イン・イタリア
辞書や歳時記の類いにやや近いが、それらともすこし違って、ほぼ毎日のように数行をちびちびと追っていく本がわたしにはある。
たとえば昨日から今日にかけての部分はこんな表記である。
17. a4 Rad7
18. Bf1 Bxf1
19. Kxf1 Nde7
これをみて、ははあ、チェスの棋譜ですか、とすぐわかる方はにやりとされるかもしれない。
『ボビー・フィッシャーの究極のチェス』ブルース・バンドルフィーニ/東公平訳(河出書房新社/1995)は、以前にも紹介したが(ここ)、俵万智さんの推薦文もカバーにある。
この本はフィッシャーの公式トーナメントやマッチ競技などのなかから101の対局を選び、それぞれのゲームの勝敗を決定づけることになった局面を解説したもので、この譜面がついた頁は何度読んでも面白い。何度、読んでもフィッシャーの絶妙の一手に「あ、そうか!」と新鮮にびっくりするのは、当方の笊の如き記憶力の賜物である。将棋でも同じだが、こういう盤上のゲームには向き不向きがあり、プロ棋士のようなフォトグラフィック・メモリーは別格としても、空間的な位置を時系列に想起できる人とできない人があるようだ。わたしは典型的な「できない人」で頭の中だけでは二手先もおぼつかない。
まあ、はっきり言って、へぼなんでありますね。
そんな奴がチェスの本なんか読んで面白いのかと不思議に思われるだろうが、それが案外そうでもない。
たとえば池内紀さんも将棋マニアで、雑誌に観戦記を書かれることもあるほどだが、その実力は、ご謙遜かどうか、これまでほとんど将棋で勝った覚えがないとご本人はおっしゃる。
だから、まあ、へぼであっても(と決めつけては池内さんに礼を失するが)駒を並べるのが大好きという人は世の中に多いのであります。
わたしの場合は、それが将棋ではなくてチェスだということになる。
ただし、頭の中だけでは動いてゆく譜面のポジションを想い描くことができないから、実際のチェスボードはどうしても必需品である。
いままで使っていたのは数千円のセットだったのだが、まあ、こういうものは気持ちよく使えるものがいいだろうと、ついに買ってしまいました。イタリア製のチェスボードと駒。それほど高価なものではないが、いままでのプラスチック製のものに比べると、荘重とまでは言わないが重厚な感じがする。腕前はおなじなのに上達したような錯覚に陥るのが我ながらご愛嬌というものだ。
上記の『ボビー・フィッシャーの究極のチェス』には、101の対局のすべての棋譜が巻末についているので、毎日二、三手ずつ、ボビー・フィッシャーになったつもりで、「オレだったら、ここはこう打つな」なんて独り言を言いながら、駒を動かしているのであります。
腕前は一向にあがらないけどね。
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コメント
初めまして、黒うさぎというものです。
トラックバックありがとうございましたm(_ _)m
「ボビー・フィッシャーの究極のチェス」は
私も頻繁に読みますよ。
棋譜鑑賞にトレーニングに 役に立つ本ですよね。
これからちょくちょく訪問してみたいと思います。
「かわうそ」さんも是非また遊びに来て下さい。
投稿: 黒うさぎ | 2006/01/11 14:03
こんにちわ。
黒うさぎさんが苦心して調べてくださったハリー・ポッターの映画のチェスのポジションは、ファン必見ですね。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
投稿: かわうそ亭 | 2006/01/11 18:07
イタリア製のチェスボードと駒、とても素敵ですね。どちらで購入されたんですか?同じ物を探してるのですが、日本で手に入りますか?
投稿: のりこ | 2006/04/18 01:03
のりこさん はじめまして。
わたしのは大阪心斎橋の東急ハンズで買ったものです。値段は正確には覚えていないのですが2万ちょっとだったと思います。
ネットでも販売はしているようです。たぶん、これが同じものではないかと思います。
↓
http://www.jca-chess.com/tyesusettoItaly2.htm#setto
投稿: かわうそ亭 | 2006/04/18 07:40
お返事有難うございました。
横浜駅の東急ハンズには無かったのですが、
URLを見まして、まさに私が捜し求めていたものでした!
教えて頂いて有難うございます。
また購入したらお知らせ致しますね!
投稿: のりこ | 2006/04/19 10:16