絶望のスパゲッティ
仕事帰りにブックオフで『アーリオ オーリオの作り方』片岡護(集英社文庫/1999)を見つけた。
この本、一昨年に極東ブログさんの書評(2004.7.22)を読んで以来、長いこと気に留めていたのだが、こういうかたちで思いがけずふっと目の前に現れるとちょっとうれしい。
著者の片岡さんという方はリストランテ「アルポルト」のオーナーシェフ。(お店のホームページはこちら)
ウェブでこの本を検索すると、いろんな方が、これいいよね、と書いている。
たしかによいですね。
まず、文章がよい。あとがきによれば、本書は片岡さんが語る内容をフードジャーナリストの大本幸子さんが文章にまとめてできあがったようなのだが、その語り口が読んでいて気持ちいいのだな。たとえば、こんな具合。
カッペリーニというとても細い麺があります。あれは素麺のテイストです。無理してソースに合わせるより、スープ仕立てにするほうが向いているような気がしました。コンソメスープに入れたら、とってもうまい具合にできあがった。うちの店では通称をねぎラーメンといいます。第二に、料理の本というのは、あんまり本格的なものだと、わたしみたいなめんどくさがりは、実際にこれつくってみようかな、などとはまず思いもしないものだが、本書の場合は、ふーん、じゃあ一丁つくってみっか、なんて思ったりする。(まだつくってないけど)レシピはごく簡単で、あんまり細かいことは気にしない、気にしない、なんて感じで、いかにもイタリー風。(なのか?)
イタリーの人に出したら、喜びました。
「おお、料理をつくる日本の人よ。これはなんですか?」
「おお、パスタの国の人よ。これはあなたのお国のパスタをねぎラーメンにしたのです」
「おお、うどんと蕎麦の国の人よ。あなたはイタリーのパスタを中国のスープ麺にしたのですか?」
「おお、イタリーからの旅人よ。どうだ、旨いだろう」
実際にこういう会話があったわけではありません。
でも、旨いと思います。いつか僕の店にいらっしゃる機会があったら、ぜひ召し上がってみてください。おすすめです。
第三に、著者の料理人になったきっかけなどがさらっと書いてあるのだが、この自伝めいたところが、また、いいかげんなような、はたまた一編の人情ドラマのようないい味を醸し出している。
そして最後に、空腹時にこの本読むと、ホント、腹減ります。(笑)
「アーリオ オーリオ」とは一度聞いたら忘れないような名前だが、アーリオはにんにく、オーリオはオリーブ・オイルのこと。
イタリーの人は、アーリオ オーリオがあまりに簡素で、材料も最低限のものしか使わないところから、絶望のスパゲッティとか、夢も希望もないスパゲッティとかいってました。
にんにく。オイル。パセリ。赤唐辛子。これっきり。贅沢なものはなんにもない。ああ、これではもう絶望だ……。という意味合いを持たせたものです。

「ちょっとくらいならいいけど、全部食うなよ、オレんだから」
もちろんリナはあんまりおいしそうだから一口すすって、やめることができず、全部食べてしまう(そしてふたたび子供らしく生きるきっかけをつかむ)という、とっても素敵な場面。いやあ、なんともうまそうなスパゲッティだったが、もしかしてあれはアーリオ オーリオだったのかなあ。もしそうなら、少女の絶望を絶望のスパゲッティが救ったことになるな。
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コメント
もう、かわうそ亭さんたら。この本、きっと買ってしまいます。
もうamazonのウィッシュリストに入れてしまいました・笑
アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノは奥が深い、です。
「マーサの幸せのレシピ」というドイツ映画も見てみたくなりました。
投稿: たまき | 2006/01/22 22:14
たはは、コメントどうもです。本のほうも映画のほうも、オススメです。
投稿: かわうそ亭 | 2006/01/22 23:28
TBありがとう。
「アーリオオーリオ」。絶望のスパゲッティね。これは、おもしろい。映画を見たとき、こういう類推が働くと、面白いね、今後も、よろしく。
投稿: kimion20002000 | 2006/01/23 00:29
こんにちわ。コメントありがとうございます。こちらこそ、よろしく。
投稿: かわうそ亭 | 2006/01/23 20:54
読み始めてすぐに映画を思い出していました。何て言う映画だったか、と悩むひまなくすぐにタイトルが出て来て、「そう、そう!」。つい2、3日前に偶然にCATVで見たんですよ! 本もおもしろそうですね。
投稿: Wako | 2006/01/24 19:36
こんにちわ。
Wakoさんも同じようにこの映画を連想されたんですね。でも、あの厨房のシーン、細かいところはちょっと違っているかもしれないなあ。リナの子役の女の子がとてもよかった。
投稿: かわうそ亭 | 2006/01/24 21:30