詩人商売は要領が一番
短歌新聞社の「短歌現代」1月号の歌壇時評を読む。
島田修三さんの「模倣の素地」という文章だ。昨年の「文学界」11月号に掲載された片岡直子さんの「インスピレーションの範囲——小池昌代さんの『創作』をめぐって」という評論を軸にした内容である。
この「文学界」の評論(というか正確には告発だな、これは)については、内田樹さんのブログ(2005年11月4日「オリジナリティについての孔子の教え」【ここ】)で取り上げられたときに、はじめて知ったのだが、実は小池昌代さんの書かれたものを全然読んだことがなかったので、さほど興味を覚えなかった。
まあ、それと内田さんの立場は、あんまりオリジナリティにこだわりなさんな、というものだからあまり切実な感じを受けなかった、ということもある。
しかし今回、島田修三さんの論評を読んで、やや気になったので、昨年の「文学界」の件の評論を読んでみた。
結論的にいえば、小池昌代さんというのはそうか「塀」の上を歩く人なんだなあ、ということだ。中途半端に良心的な作家は明白な剽窃をして(先行作品への敬意があえて丸写しをさせるのではないかという気もする)世間の指弾を受ける。
しかし、この人は「塀」の内側には落ちないように巧みに先行作品をいただいちゃうやり方であるようだ。
片岡直子さんたちのいらだちもおそらくはそこにあるのだろう。
先行作品があることがバレなきゃ、それが一番。
万一バレてしまっても、「はい、たしかにあの方の作品にインスパイアされて、そこからわたしの世界をつくったんですが、それが何か?」と堂々と言ってのける「度胸」が(たぶん)ある。
島田修三さんはこのように書いておられる。
いまスポットライトを浴びている詩人小池昌代は商業的メジャーの表現者としてであり、現代詩壇という商業的過疎地に閉じこもる多くの詩人たちはマイナーだということになる。陽のあたることの少ない(つまり、商業的なメディアが対象とする読者の目に触れる機会の少ない)場所をみずからの表現の資源として、陽のあたる場所にみずからのオリジナルであるごとく意図的な焼き直しをしているのだとしたら、小池昌代は表現者としての最低限の節操や倫理を踏みにじっていることになるだろう。
つまり、問題をややこしくしているのは、文芸作品のオリジナリティという側面と、商業的なメジャーとマイナーというリアルな側面が縒り合わさったかたちになっているからだろう。もっと、あからさまに言えば、片岡さんの義憤の底にはやはり嫉妬があるだろうなということだ。それを否定してしまってはキレイゴトすぎる。しかし、それを割り引いた上で考えても、商業主義から距離を置いた世界からちゃっかり表現のネタを収集して、自分の作品として発表する小池さん流のやりくちは、へえあなたやり手ですねと、メディア業界では感心されるのかも知れないが、もちろんかなりみっともない。
小池昌代さんという方を検索すると、朝日新聞(asahi.com)の書評も担当されているようだな。書評の方は大丈夫なんじゃろか。しかしあの朝日伝聞社だからなあ。まあ、どっちもどっちか。
もちろん先行作品にインスパイアされてできる作品はある。
たとえば、島田修三さんが、「短歌現代」でとりあげておられるのは葛原妙子と斎藤史だ。
他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水
葛原妙子「朱霊」(1970)
死の側より照明せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも
斉藤史「ひたくれなゐ」(1976)
しかし、残念ながら小池昌代さんの詩作品などは、「文学界」の検証を見る限りでは、この域にはとうてい達していない。ちゃっかりいただいて、口をぬぐっていると非難されても、これでは仕方ないかも知れない。
たしかに法的な手段に出られても、小池さんは逃げ切れるだろうが、まあ、せめて詩人は名を惜しむ人であって欲しいと思うのは気楽な読者の勝手な願望だろうか。
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コメント
小池昌代さんのエッセーが中日新聞に載ってます。
「エッセー心のしおり」って題名です。
2007年10月31日付けの朝刊第8面では、ディズニーランドを皮肉った描き方をされていて、その内容がとても不快なものでした。
なんというか、まったく「夢」のない、くだらない内容で、こんな文章を朝から読まされて、めちゃくちゃ気分悪くなりましたよ。
小池昌代って人、私は好きじゃないですね。
ああいう考え方をする人って、理屈っぽい人だと思う。
投稿: りりぃ | 2007/10/31 12:01
こんにちわ。コメントどうもありがとうございます。
小池昌代と小池真理子と小池百合子とが、ときどきごっちゃになるのはわたしだけでしょうか。って、ぜんぜん関係ないか(笑)
投稿: かわうそ亭 | 2007/10/31 18:27