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2006/02/22

ISLAND / ALISTAIR MACLEOD

『Island: The Complete Stories』Alistair MacLeod (Vintage Books/2002)を読む。
タイトルにあるように、アリステア・マクラウドの全短編集である。もっとも全部といっても、寡作で知られる作家だけに、わずか16編にすぎない。題名と発表年は次のとおり。

  The Boat (1968)
  The Vastness of the Dark (1971)
  The Golden Gift of the Grey (1971)
  The Return (1971)
  In the Fall (1973)
  The Lost Salt Gift of Blood (1974)
  The Road to Rankin's Point (1976)
  The Closing Down of Summer (1976)

  To Every Thing There Is a Season (1977)
  Second Spring (1980)
  Winter dog (1981)
  The Turning of Perfection (1984)
  As Birds Bring Forth the Sun (1985)
  Vision (1986)
  Island (1988) 
  Clearances (1999)

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ふたつに分けたのは、中野恵津子さんによる翻訳、『灰色の輝ける贈り物』と『冬の犬』に対応させたため。

わたしは、『冬の犬』をまず翻訳で読み、長編の『彼方なる歌に耳を澄ませよ』(同じく中野訳)を読んで圧倒された。残る短編もぜひ読みたいと思ったのだが、どうせなら英語で読んでみようと思ったのである。そうすれば、『冬の犬』に収められた短編も英語で再読できるわけだし。

中野恵津子さんの翻訳の文章は、わたしは好きなのだが、マクラウドの原文は訳で予想したよりすこし難しいかな、という印象をもった。後半の短編は、すでに翻訳で読んでいるので比較的短時間で読めたが、前半は初めてだったせいか結構読み進むのに手間がかかったし、最後までうまく理解できない箇所も残った。(しかしそれはあまり気にならない。理由はあとで述べる)

2001年7月に行われたというこちらのインタビュー記事を読むと【ここ】マクラウドの文章の特徴が見えるような気がする。彫心鏤骨という言葉があるが、丹精をこめてひとつひとつのセンテンスを書きあげ、一度書いた文章は最後までほとんど手直しをしないという。また最初から、エンディングの一行が決まっているというスタイルは、ほんとうかどうかは定かではないが三島由紀夫などもそういうことを好んで言っていたように思う。
面白いのはかれの執筆手法で、ノートの右半分に原稿、そして左半分にはさまざまな印象の記録、覚え、スケッチなどを書いているというのだな。このノートは、研究者なんかには面白いだろうなあ。

またこのインタビューで、印象に残ったことが他にも二つある。

ひとつは、かれは『彼方なる歌に耳を澄ませよ』を書いたときに、悪者が一人もいないようにしたかったと語っていること。もちろんあの作品の中にも、最後には殺しあいに至るような人間関係もあるわけだが、すくなくとも邪悪さをもった人間はたしかにいないようだ。小説のなかに悪者をつくってそいつをやっつけるなんてのは安易すぎるだろ、とかれは答えているのだが、「でもそれってディケンスなんかにはよくありますよね」とインタビュワーのクレイグ・マクドナルドに突っ込まれて「うん、まあそうね」と苦笑している。(マクラウドは、65歳で辞めるまで、ディケンスなどの19世紀英文学とクリエイティヴライティングを教える大学教授でもあった)

もうひとつは、かれは自分の小説を書きながらそれを声に出して読んでいるというのだな。かれによれば、人間にとって声に出して語るというのは、ものを書いたり、読んだりするより起源の古いもので、自分はむしろそのようなストーリー・テラーでありたいと願っているというのだ。「これはだから、大半のわたしの小説が、語りに一人称を使っていることの理由なのさ」というわけだ。
実際、『ISLAND』の前半は初読で文章をきちんと理解するためには多少時間もかかったのはやむを得ないとしても、ところどころ意味が最後まで不明なところもあった。しかし、この作品についてはそれがあまり気にならないと先に述べた。なぜ気にならないのかといえば、わたし自身が、わからないところは多く声に出して、その文章を読んでいたためである。声に出して読むと、わからない部分はわからないままで、なんとなくわかってしまうのであります。
乱暴な話だが、まあ、物語なんてそういうもんだということがわかる人にはわかるだろう。

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