みすず読書アンケート
図書館で「月刊みすず」1・2月合併号の読書アンケートをぱらぱらと眺める。
新刊、旧刊を問わず昨年出会った本の中から5冊以内を選んで一言、という方式で、全部で176人の方が回答を寄せておられる。
この月刊誌の性格から言って、「どう、ハイブロウでしょ、アタシたち」という匂いがぷんぷんして嫌らしいことこの上ないのだが、もともとそういうスノッブな世界が嫌いではないので、楽しく読んだ。ははは。
もちろんこの企画は、各界の専門家による読書案内という風に素直に取ればいいので、そこにへんな嫌らしさを見て取るのは、まあ、わたしの品性がその程度であるということであります。すまん。
しかし、今日の内田樹さんのブログの「『論座』からのご挨拶」と題するエントリーにも似たようなことが書いてあって可笑しかった。【ここ】
『論座』の取材。こういう読書アンケートというのも、まあ似たようなものかも知れない。
「書棚拝見」という企画で、書棚の一角を撮影し、それが誰の書棚であるかを推理しつつ頁をめくると本人のインタビュー・・・という構成である。
(中略)
この企画は「どういう本を並べているか」を見るのではなく、「どういう本を並べていると『ちゃんとした教養人に見える』と思っているか」を見る企画だったのである。
人の悪い企画である。
だから、昨年の本の中からわざわざ『NANA』矢沢あい(リボン・マスコット・コミックス)なんてのを選んで、これ見よがしな文章書いてる人なんてのは、かえってくだらない、なんて思っちゃうんだなあ。いやはや、知識人のみなさんの読書アンケートは難しい。
さて、前置きが長くなったけど、書こうと思ったのは、そういう自意識過剰なアンケートのことではない。この読書アンケートに長田弘さんが寄せた回答がとても印象深かったということを書こうと思っていたのだな、じつは。
前半を引用してみる。
二〇〇五年という一年の本の記憶は、わたしの場合一書に尽きるといってよく、噂に聞きながら、完結してはじめて手にした銭鍾書『宋詩選注』(全四巻、宋代詩文研究会訳注、東洋文庫、平凡社)がくれた読書の時間は、最良の時間でした。宋詩のみごとなアンソロジー。銭鍾書という学者がどういう人であるのか、もちろんわたしは知らないが、長田さんのこの一文を読み終えるや、ただちに東洋文庫の書棚に赴き『宋詩選注』を借り出したことは言うまでもない。
はなやかな唐詩とちがって、目立たないとされる宋詩ですが、『宋詩選注』に刻みこまれた、宋詩をわたしはこのように読むという潔い読みのむこうには、日本ではなお未知にとどまる銭鍾書という(六〇年代末からの文化大革命期には「反動的学術権威」として激しく誹謗された)大いなる同時代人の生きた、二十世紀の中国の「無語」の奥行きがひろがっています。
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コメント
「みすず」の読書アンケートは昔から必ず目を通し、既に読んだものには×、読みたいものは○をつけて手帳にも控えてきました。ええ、スノッブであることは十二分に自覚しています。
それでも年々○の数が減ってきたのに、好奇心の衰えを感じていました。
このアンケートの質が高いのは、本屋の店頭に平積みされる泡沫ライターはほとんど招かれていないこと。ここに登場する人たちが大新聞や雑誌にもっと登場するようになれば、それだけでもかなりすっきりした日本になるだろうと思いますがーー。
投稿: 我善坊 | 2006/02/11 13:36
うはっ、わたしの場合、ほとんど読んでいた本がなかったので、コンチクショウと、単なる見苦しい八つ当たりでございます。(笑)失礼いたしました。
でも、記事に書いた銭鐘書『宋詩選注』はいま一巻を読んでおりますが、じつに面白いです。
投稿: かわうそ亭 | 2006/02/11 16:55