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2006/03/11

地獄で握手(3)

80万人とも言われるルワンダの大量虐殺の火蓋が切って落とされたのは、前回書いたように1994年4月6日の大統領機墜落事件以後だが、国連ルワンダ支援団(UNAMIR)のロメオ・ダレール司令官は、すでにその年の1月には、フツ族の民兵組織が大量の武器を隠匿しているという情報を内通者から得ていた。
ここで国連の部隊が先制攻撃をかけて武器を回収すれば、ツチ族の殲滅を民衆に煽動し、和平合意を危うくしているインテラハムウィ党(例によって発音は不確か。英語では Interahamwe と表記)の動きを封じて、国連が治安上の主導権を取り戻すことができるとダレール司令官は思った。

1月11日夜、彼はニューヨークの国連本部に翌日からの作戦行動を伝えるためにファックスを送った。
「それから寝たんだけど、考えてみると、一番いい眠りだったね、あの夜が」

ところが翌朝、目が覚めると至急の電文が入っていた。電文の表にはコーフィ・アナンのサインがあった。(このときの国連事務総長はブトロス・ガリ。現事務総長のアナンはこの時点では、平和維持活動担当の国連事務次官補から事務次長に昇格したころの筈だ)
「作戦行動の中止を命ずる。このような作戦行動は権限外である」とそこには書かれていた。

この1月11日のダレール司令官のファックスはのちに「ジェノサイド・ファックス」と関係者の間で呼ばれるようになる。差し迫ったジェノサイドを国際社会に警告したファックスという意味である。しかし、インタビューの中では、ロメオ・ダレールは「ジェノサイド」という言葉には慎重な姿勢を崩さない。
「それはちょっと違うんだ。たしかに、大規模な殺戮が差し迫っていることは警告していたけれど」と語っている。
いずれにしても、この1994年1月11日と12日が歴史のターニング・ポイントだったのかもしれない。

インテラハムウィ党の残虐行為は、ここでは書くのもためらわれる。しかし、ひとつだけ言えることは、この大虐殺は一時的なパニックに駆られた群衆が暴走したというような性質のものとはあきらかに異なるということだ。

歯止めのきかない大虐殺が続く中で、殺されてゆく人々を救うにはどうすればいいのか。
皮肉なことだが、そのためには、実力行使のできない第三者機関の人間は虐殺者と「友好関係」を築く必要がある。わずかでも人々を救う交渉をするには、彼らにすり寄るしか方法がない。
ロメオ・ダレール司令官はルワンダ国防次官のパゴソラ大佐に斡旋をたのみ、三人のインテラハムウィ党の幹部に会見する。

「国連のジェネラル」がわざわざ自分たちに敬意を表しにやって来たというわけで、パゴソラ大佐の紹介で三人は誇らしい顔で手を差し出す。
ダレルはそのとき、連中の服に点々と血しぶきが残ったままなのに気付く。
「そのときだ。突然、連中の姿は人間から別のものに変わったんだ。なにかが起こって、次の瞬間にはもうやつらは人間ではない、なにか別のモノに変わった。わたしは人間と話をしているのではなかった。わたしは悪魔と話をしていた。三人はルシファーの右腕だった。そしてルシファーは、パゴソラ大佐に他ならなかった。わたしは握手できなかったよ。
「本能的にわたしは腰のピストルを抜いて、このくそったれどもの眉間を撃ち抜こうとと思った。なぜならわたしはまさに悪そのものと顔を見合わせているのであり、そいつらは人間ではなく、わたしが破壊しなければならない何かだとわかったからだ。——それはまったく困難な倫理的な問題だった。わたしは人々を救うために、ほんとうに悪魔と取引をする気なのか。それとも、この場で、この畜生どもを撃つべきなのか。
じつのところ、いまでもその答えはわからない」

ルワンダとダレール司令官の話はとりあえずこれでおしまいにします。気の重いお話に最後までつきあっていただき感謝いたします。

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コメント

お邪魔いたします。3回連続で読みながら、映画『インタープリター』を思い出していました。世界政治にうとい私ですが、なんだか背景が似ているように思いました。ニコール・キッドマンが国連の通訳として主演した映画です。

投稿: Wako | 2006/03/11 20:57

あ、そうそう、この映画、公開されたら見に行こうと思ってて忘れてました。ニコール・キッドマン好きなんです。そうですか、もしかしたらルワンダをモデルにしたのかもしれませんね。ビデオになってるかしら。

投稿: かわうそ亭 | 2006/03/11 22:00

ウソゥーー、いえ、やっぱり、というか、ニコール・キッドマンを好きだなんてぇーー、ショック、いえ、うれしい、というか、私も好きな女優です。美人ですよね~~~。『めぐり逢う時間たち』のウルフ役がすごかった。

投稿: Wako | 2006/03/12 02:43

ええ、ええ。わたしも、あの映画でヴァージニア・ウルフといえば、かならずニコール・キッドマンで思い浮かべてしまうようになっちゃいました。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2006/03/12 21:56

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