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2006/03/21

虚子の結婚、碧梧桐の結婚

去年の12月15日の条に、桂信子が俳句を作りはじめた昭和10年頃、大阪で有名な俳人といえば松瀬青々とか青木月斗なんて人で、つまらないからもう止めようと思っていたら、偶然に日野草城の清新でおしゃれな「旗艦」に出会って、俳句を続けることになった、なんて話を紹介した。【ここ】
桂信子は1914年生まれだから、このとき二十四歳くらいか。ここに名前の出ている松瀬青々は1869年生まれ、このとき六十六歳前後。青木月斗は1879年生まれの五十六歳くらいであったはず。いまでこそ老人というほどの年でもないが、桂信子にはよほど魅力のないおじいちゃんに見えたのだろう。

村山古郷の『明治俳壇史』(角川書店)には、この二人が河東碧梧桐との意外な関係でもって登場する。
こんな話だ。

碧梧桐という人は、「日本新聞」、「京華日報」、「太平新聞」などに勤めてはすぐ辞めるという風で、どうも根気づよく働くことの苦手な人であった。すぐに、ぷいっと旅に出てしまうのですね。後には「三千里大旅行」という数年がかりで日本中を隈なく歩いてまわる俳句行脚をしている旅好きである。渡世人の寅さんみたいでカッコいいですな。
じっさい寅さんではないが、この旅から旅への暮らしは、もしかしたら失恋がきっかけであったかもしれない。

明治29年に、碧梧桐と虚子は神田区淡路町一丁目一番地の高田屋という下宿に同宿する。それまでもこのふたりは京都の三校時代、仙台の二校時代と、くっついたり離れたりしながらつるんでいる同郷の友人だった。
虚子には碧梧桐を悼んで詠んだ「たとふれば独楽のはじける如くなり」という弔句がありますね。

さて、この高田屋、主人は大畠豊水という旧前橋藩士の出であったが、官吏をやめて学生下宿を営んでいた。長女夫婦と次女が一緒に住んでいた。長女が台所を扱い、次女が下宿生の世話を担当した。次女の名前を糸子という。この糸子が碧梧桐は好きになった。糸子の方も碧梧桐を「カワさん」、虚子を「キヨさん」と呼んで家人同様に二人に親しく接していた。
ところが翌明治30年に碧梧桐は軽い天然痘に罹っていることが判明し、一ヶ月ほど入院をしたのですね。病癒えて下宿に戻ると、糸子の様子がおかしい。あれほど親しかったのに、急によそよそしいではないか。なんと自分の留守中、虚子との間に縁談が進んでいたのであった。虚子と糸子が夫婦となり生まれた長男が高浜年尾。さらにその娘が稲畑汀子という風に、この血筋は続くことになるわけです。
失恋した碧梧桐は悄然と旅に出たのでありました。
(この項つづく)

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コメント

「碧梧桐+高田屋」で検索したら、ここにたどり着きました(笑)。3年遅れでかわうそ亭さんの跡を追っている次第です。「神田区淡路町一丁目一番地」は、広くて高田屋の場所は特定できませんね。
ところで、碧梧桐が悄然と旅に出た先は、同郷の後輩竹村秋竹(四高生)のいる金沢でした。ここで碧梧桐は秋竹の下宿先の娘(また下宿先の娘です)“中川富女”とも出会うことになります。碧梧桐は後に秋竹と一緒に子規庵を訪ねた富女と東京でも再会することになりますが、実は富女への想いも相当のものであったらしいのです。(この続きは、後日、拙ブログで)

投稿: かぐら川 | 2009/12/07 01:38

うーん、この時代の学生と下宿先の娘というのは、なんといっても昔の日本家屋ですから一つ屋根の下で互いの息づかいまで感じあうようなところがあったのかなあ。いや、たんに碧梧桐さんが惚れやすい体質だったのか。(笑)「続き」を楽しみにしています。

投稿: かわうそ亭 | 2009/12/08 00:29

「中川富女」を検索して、またしても!、ここにたどりついてしまいました(笑)。
上に書いた拙稿の「続き」は書いたつもりだったのですが、書かずじまいになったことも、判明しました。金沢市の塩川町に秋竹が下宿していた中川家があったと知って訪ねたことがあって、そのことも書いたと思っていたのですが・・・。
久しぶりに金沢の柿木畠地区(香林坊の裏のあたりです)の地誌に「中川富女」の名前を見つけ、今、拙ブログに落書きしたところです。

投稿: かぐら川 | 2011/02/12 17:04

こんばんわ。金沢、いいですね。妹島和世さんと西沢立衛さんが設計された金沢21世紀美術館を見に行きたいと思っているんですけど、なかなかヒマもお金もなくて。
会員登録しているカーナビのサイトで、自宅から金沢までのクルマの所要時間を調べて想像だけしてます。片道4時間でした。日帰りできなくもない。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2011/02/12 21:59

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