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2006/07/22

目利きはきかない

『司馬遼太郎と三つの戦争 戊辰・日露・太平洋』(朝日選書 )は、司馬遼太郎の産経新聞時代の同僚であり、司馬遼太郎記念財団常務理事でもあった青木彰が、朝日カルチャーセンターで2000年から2001年にかけて計6回行った講演を中心に編集したものである。
わたしが読んだのは、図書館の本で、「2004年3月25日第1刷発行」の奥付がある。

司馬のごく近しかった人による講演録なのでたいへんおもしろく、とてもいい本なのだが、「あらら、これは」という間違いを発見。ただし重版になっていればその後、訂正されているかも知れません。
まあ、間違いといっても本質的なものではないし、あとで述べますが、本の著者となっている青木彰には責任はないものと思われます。

ことは司馬遼太郎の「海軍好き」に関する箇所。

司馬はよく知られているように戦車兵として戦争末期、陸軍に身を置いていました。青木彰は海軍でした。(ちなみに青木の父はミッドウェイー海戦の空母赤城の青木泰二郎艦長である)
司馬は、海軍は「文明」であり、陸軍は「文化」だっという。文化は普遍性がなくても、あるいはないがゆえに存在し、土着性が濃厚になる。それが司馬が陸軍をきらった理由だろうと青木は言い、司馬とのこんな会話を紹介します。

自分の所属していた陸軍が、文明から遠いところにあると感じたことが大きいのではないでしょうか。
たとえば、海軍士官は「スマートたれ」として、教育を受けます。
たしかに、私たちはそう教えられました。私たちの時代にはこういわれたのです。
「スマートで、目利きがきいて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」
この話を聞いたときの司馬さんの喜びようは大変でした。
「そうだよ、それが文明だよ。普遍的な人間のあり方だよ」
と。

あれれ「目利きがきいて」は駄目ですよね。ここは、もちろん「目先がきいて」でなければならない。

じつは、この本には、ご丁寧にもういちど「目利きがきいて云々」という表現が出てきます。それは「あとがき」の最後の部分で、この「あとがき」を書いたのは朝日新聞北海道報道記者という肩書きの村井重俊さんという人物です。この「あとがき」によれば、この講演録は「週刊朝日」のフリーライターとして「司馬遼太郎からの手紙」を担当した日野雅子という人が講演のメモから原稿に書き起こし、村井氏が構成を担当したとのこと。じつはこの時点で青木は肺がんで入院中でゲラは渡したが、手を入れてもらうことはできなかったそうなんですね。「講演録の文責はわたしにある」と村井氏も書いておられるので、そうであろう。

いい本だと思うので、きびしいことを言うようだが、もうすこし、原稿起こしにしても構成担当にしても、文章のプロらしい仕事ができなかったのか。これでは泉下の青木が気の毒である。重版で訂正されていればいいのだが——。

正しくは、

わたしも実際に教えられたわけではないが、おそらくはこうではなかったか。

 スマートで、目先がきいて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り。

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コメント

ご無沙汰しておりました。
久しぶりに書くのがあら探しめいて気が引けますが、私が昔聞いたのは「スマートで、”目端(めはし)”が利いて-」でした。まあ、どちらでも意味は殆ど変わりませんが」
「海軍は文明、陸軍は文化」は、言い得て妙です。

投稿: 我善坊 | 2006/07/23 13:03

こんばんわ。
じつは、わたしも今回この本を読んではじめてこの格言のことを知ったくちですから「正しくは——」なぞとふんぞりかえってエラそうなことを書いてはほんとうはいけない。(笑)
ただ、ここの箇所が間違いである(いくらなんでも日本語として「目利きがきく」はヒドイ)ことはすぐにピンと来ましたので、ネットで検索すると「目先がきいて」というかたちのものと「目端がきいて」というかたちのものがあることがわかりました。ヒット数は「目先」の方が多いようです。どちらが正しいかたちだったのかは、わたしにもわからなかったのですが、「目先」の方が多数派のようであったことと、目先にはとっさの機転(ready wit)という意味と先の見通し(foresight)という意味があるようなので、たぶんこっちがオリジナルじゃないかと判断しました。ただし自信はありませんので、本文も一部修正しておきました。

戦後、企業に入った海軍出身者が軍隊経験のない部下にこれを教え、一種の口承文化として伝わっていくうちに、二つに分かれたのではないでしょうか。

この格言の作者は太田質平大佐という人で大正末から昭和初期に流布したという考証もあるようですが、わたしには適否はまったくわかりません。
(こちら↓)
http://www.warbirds.jp/ansq/7/G2000424.html

投稿: かわうそ亭 | 2006/07/23 21:54

念のために、本の該当箇所をもう一度たしかめたら、さらに間違い発見。(笑)
「目利きがきいて凡帳面」となっていました。(120頁)あちゃあ。
もう一カ所の「あとがき」の方は「目利きがきいて几帳面」ですけどね。

投稿: かわうそ亭 | 2006/07/23 22:30

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