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2006/10/02

乱交の生物学

2006_1002 烏有亭日乗さんのところで、ティム・バークヘッドの『乱交の生物学』(新思索社)という本のことを知り、早速読んでみた。たいへん面白かった。
ちゃんとした内容は、烏有亭日乗さんの書評をお読みいただくとして、わたしのほうはこの本のどうでもいいエピソードからいくつか気楽なヨタ話など。

その一。
メスにとって卵子の受精を確実にするためのひとつの戦略は精子を貯蔵するという方法である。たとえば生息密度が低くて、オスとメスがちょうどいいタイミングで出会う確率があんまり高くないような種は、とにかく機会があればどんな相手であっても交尾してその精子を繁殖に都合のいいときまで貯蔵しておくというのは合理的なやりかたである。爬虫類はこういう精子貯蔵能力にたけている。ヘビには2年から3年の間精子を貯蔵する種がいくつかみられる。これに対してヒトはこれほどまでの精子の貯蔵能力はもちろんない。(でなければオギノ式はありえないですわな)
さて本題はここから。
あるとき著者はさまざな動物の精子貯蔵についての一般記事を書いたというのですね。そのなかでヒトの精子貯蔵期間の短さについても言及した。記事が掲載されてしばらくして著者のもとに手紙がきた。それは、北海油田で働いている男性からのもので、それによるとかれは仕事柄、いちど家を出ると三ヶ月は帰れない。しかるに、前回の勤務から帰ると妻が妊娠二ヶ月であったというのであります。かれは非常に信心深い人間なので、これは処女懐胎のたぐいか、あるいはヒトにおける精子貯蔵の新記録のどちらかだと思うと書いてあった。著者は、この男ただの変人と思って、手紙を投げ捨てた。翌日、今度はその男の妻と名乗る女から電話が入った。彼女は夫が手紙を事前に見せた様子を語って、すすり泣きをはじめた。もちろん、ヒトにおける精子貯蔵の新記録とか奇跡なんてわけないじゃないですか、ただ夫がいなくて寂しかったから・・・
著者は、これはまずい、こんな人間ドラマに巻き込まれてしまってはかなわないと、あせってその日は一日落ちつかなった。まあ、そうでしょうね。しかし、なんのことはない。すべては著者が指導教官を務める院生どものいたずらであった。
ははは、やるなあ、学生諸君。

その二。
睾丸(testis テスティス)の語源は誓い(testament テスタメント)あるいは証言という言葉と同じ語源をもっている。
誓いをたてるときにキンタマを握るのがローマの習慣であったから。(笑)
これほんとかしら。塩野七生の「ローマ人」シリーズにもそんな「大事」な話はなかったぞ。
裁判やら、公聴会やら、結婚式やらで、聖書に手を置いて誓うかわりに、キンタマ握りながら誓うのは絵柄としてなんかいいかも。あ、でもそうすると女はどうするんだろ。(笑)

その三。
精子と卵子を比較すると、ほとんどすべての種であきらかに精子の方が小さい。しかも、個体の生涯で考えると、ほとんど何兆個という精子をつくる種(たとえばヒト)にとっては精子の生産コストは無限に小さいはず。しかし、一方で精子は数百万個から数億個の単位で射精されたり、精包というかたちでパッケージにされて提供されるから、精子生産のエネルギーコストはけっこう馬鹿にできないかもしれない。というわけで、行動生態学者と呼ばれる人々は、オスが精子生産にどれほどのエネルギーをつぎ込んでいるのか(つまりどれくらい他のことを犠牲にしているのか)に関心を抱き続けてきた、と著者は説明する。
そして、精子の生産コストが決して安くないかもしれんよと次のように言うのであります。

精子が無限に生産できコストも安いという仮定は間違っている。(中略)少なくともすべての男性が知っているように、精子には限界がないわけではないということだ。なぜなら射精の後には回復期間をとらざるを得ないからである。回復期間はヒツジやチンパンジーのようないくつかの種においては非常に短いようだが、それでも彼らとて限界はあるのだ
ある一頭の雄ヒツジに一日五〇頭以上の雌のヒツジをあてがってみても、そのうち何頭かは妊娠しない。

ここでわたしは(食事中だったのだが)吹き出した。
いいですか、よくお読みいただきたい。最後のとこです。「何頭かは妊娠しない」ですよ。オスヒツジ君は音をあげたとか、終わりのほうはもういやになって止めたとか、やりたくてもできなくなっちゃった、というのではないことにご注目。
いやはや・・・・

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コメント

私の記事が参考になりうれしい限りです。上記のエピソード私も爆笑しました。ところで2番目のtestisの語源のことなんですが、赤ん坊が生まれたときに男であることを金玉で証を立てることに由来すると何かの本で読んであることがあります。どちらが本当なんでしょうか。塩野さんの著書にも出てないとするとモムゼンに当たらないといけないでしょうか。

投稿: 烏有亭 | 2006/10/02 22:32

こんばんわ。どうもです。
testisの語源のこと。へえ、そういうのもあるんですか。いずれにしても、キンタマはむかしから大事にされていたんですね。よかった、よかった。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2006/10/02 23:05

「その一」について。
大いに笑いました。
こんなユーモア溢れる学生を持った教員って、幸せですねえ!

投稿: 我善坊 | 2006/10/04 10:13

いや、ほんと。著者のティム・バークヘッドは英国シェフィールド大学の教授、鳥類学者としても著名だそうですが、なんか人柄がわかるような感じもありますね。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2006/10/04 15:23

「根をあげた」は、
「音を上げた」かな?

投稿: 麻由子 | 2006/10/10 18:39

あ、ほんとうだ。どうもありがとうございました。本コメントを訂正記録とします。

投稿: かわうそ亭 | 2006/10/10 19:17

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