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2006/11/26

英語類義語活用辞典

20061126_1 『英語類義語活用辞典』最所フミ編著(ちくま学芸文庫/2003)を通読する。
辞典という名前がついており、実際、座右の類義語辞典としても役に立ちそうだが、本書はとりあえず頭から順番に読んでいくのが面白い。

英語はカタカナ言葉として日本語になっているものも多い。インテリジェンスとか、チャーミングなんてのは、英語という意識もなく普段つかっていたりする。
では、マインドという言葉はどうだろう。
たとえば、英語でいうところのマインドは、躰のどこにあるのか、と質問したら、何人の人が、人差し指で頭の横をとんとんと叩くだろうか。多くの人は、「心と言えばここさ」と、胸をどんと叩くのではないかという気がする。

本書には、このマインドは「mind / spirit」という項目立てで登場する。
その一部を紹介してみよう。

つまり日本語の「こころ」は、"spirit"と"heart"を兼用するが、知性の意味はあまり含まないようである。ところが英語の"mind"は理性を司り、情感を司る"heart"とはまったく対照的な存在なのである。
(1) He has a good mind.
と言えば、彼は頭脳明せきだということで、よく間違えられるように善意の人だと意味はない。この"good"は機能的に「よい」の意味であって道徳の含みはない。しかし単に頭脳だけではなく、判断力、健全さすべてが"a good mind"の中に入っているのである。
(2) The world's best minds were there.(世界最高の人知が一堂に会していた)

このマインドが日本語の「こころ」とはまったく異なるということは、わたしもあるときにネイティヴ・スピーカーに指摘されて目からウロコがおちた(そのときまさにかれはにやりと笑って頭をとんとんと叩いていたのだが)ことのひとつである。

最所フミは1908年大阪府生まれ。津田英学塾(現津田塾大学)を出て、ミシガン大学英文科、同大学院を卒業。帰国後は1934年から敗戦の1945年までNHKの海外放送課勤務。戦後はリーダーズ・ダイジェスト社編集局勤務のかたわら「JAPAN TIMES」に英文の映画週間評論を26年間にわたって書き続けた。1990年没。

本書と最所フミのことは、renqingさんの、こちらのエントリーで教えていただいたことがきっかけとなった。そちらにもあるが、このちくま学芸文庫版には加島祥造の解説もついていて、これまた一読の価値がある。ふたりは若いころにベストセラー本の共訳をして、それが結構売れたので、「目黒に小さな土地を購」い「彼女が会社から借金もしてして小さな家をつくり、共に住んだ。」この暮らしは、加島がアメリカ留学するまでの3年間続いたとのこと。その後のことは、加島はなにも書いてないが、加島もそのメンバーであった荒地の鮎川信夫夫人となったことは知る人ぞ知る。
実は先日『幽霊船長—河原晋也遺稿集』(文藝春秋)も読んだのだが、最所と鮎川の最晩年の住まいの様子がうかがえてなかなか面白かった。こちらにもあるが、鮎川という人は、まったく私生活を表に出さない人で有名で、死んだ時も結婚していたことさえ知らないごく近しい友人がいたらしい。

そういう背景を知った上で、最所フミが本書『英語類義語活用辞典』で、stickには「愛着」をあらわす意味合いもあるとして、こんな用例をあげているのを見つけると思わずニヤリとしたくなる。

Two people marry usually because they intend to stick to each other to the end of their lives, and to let the world know about it.
2人の人間が結婚するのはふつう死ぬまで離れるつもりはなく、そしてそのことを世間に知らせるためである。

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b)書評」カテゴリの記事

コメント

 これは面白そうです。言葉って文化を背負ってますからね。

投稿: たまき | 2006/11/26 00:37

ご無沙汰いたしました。
私も手紙を書くときに便利なので英語の類義語辞典を二つほど持っていますが、日本語で解説されたもの方が面白く読めそうですね。
mindとspirit、私も「目からウロコ」でした。
日本人はwarm heartとcool headという対比が好きで、しかもこれは対等以上にwarm heartに傾いています。本当に必要なのは「判断力」だけでなく「健全さ」を含むgood mindで、ことに政治や経営など実務のリーダーにはぜひ必要なもののはずですが、我々はwarm heartだけを問題にしがちですね。
この本は早速読んでみましょう。

投稿: 我善坊 | 2006/11/26 10:02

たまきさん
この辞典、初版が1979年だから、いまではちょっと時代遅れ、という評もあるようなんですが、わたしは面白かったです。それは、やはり英語圏の人々のものの見方——すなわち文化にきちんと触れている手触りがあるからだと思う。

我善坊さん
わたしの場合、しゃべるときはカタコトだから、仮に不適当な言葉を口にしても、相手の方で「まあ、こいつはあまり英語がわかっとらんようやから、たぶんこういうことが言いたいんやろな」と補ってくれるので助かっているのだと思います。
本書の中に、戦前の駐米大使がアメリカ政府宛の公文書に"grave consequences"という言葉をつかって大騒ぎになったなんて話があります。単に「重大な結果」という意味で言っただけだというのですが、外交の公文書でこの表現が使われるのは「戦争を招来する」という意味以外にはないので、アメリカ側はこれを恫喝と受け取ったといいます。書くのは、やはりよほど気をつける必要がありそうですね。

投稿: かわうそ亭 | 2006/11/26 22:46

私は、大きな心得違いを私はしていたようです。

「法律を学ぶ者は、《legal knowledge》ではなく《legal mind》をこそ身につけるべき」と言われ、なんとなくわかったような気になっていましたが、あっそういうことだったのかと、今になってすとんと腑に落ちる思いがしました。
なんとなくmindという語の音の柔らかさに、――草野球で“ドンマイ”を教え込まれたせいもあるのでしょうか。――誤解の原因があるような・・・。

投稿: かぐら川 | 2006/11/29 23:31

かぐら川 様
ジーニアス英和辞典第3版に、
[mind] 記憶(している)が原義。
とあります。そこからすると、don't mind は、その失敗は記憶にとどめておく必要ない、くらいの「こころ」ではいでしょうか。

投稿: renqing | 2006/11/30 04:48

かぐら川さん
そういえば草野球で覚えた英語も多いなあ。「ドンマイ」もそうだし、「one down」「two down」は「ワンザン」「ツーザン」(わたしの田舎ではワンダン、ツーダンとは云わなかった)。「one bound」は「ワンバン」。「アンダー・スロー」は長いこと下手投げのゆっくりした投球だとばかり思っていた。スロー・モーションのスローだと思っていたのね。(笑)英語では「underhand pitch」と云うことが多いみたいですけど。

renqing さん
「こころ」の(2)、中国人の「心 xin」の考察、楽しみです。コメントはあらためて(2)がアップされてからさせていただきますね。

投稿: かわうそ亭 | 2006/11/30 22:31

renqingさん、コメント有り難うございました。そうなんですね。

ところで、草野球で使っていたゴムボール、あれを「ていきゅう」と呼んでいましたが、おとなが使っているのが「高球(こうきゅう)」で、おれたちのは「低球」だと思っていました。
でも、「こうきゅう」は間違いも無く「硬球」ですから、「ていきゅう」は、テニスボールの「庭球」だったのでしょうね。

投稿: かぐら川 | 2006/12/01 10:58

あの~、ちょっと一言だけ。heart とmind の対比は、次の詩にも表現されていると思います。このかわうそ亭さんの場所をお借りして、以前引用させていただいたものです。
http://kawausotei.cocolog-nifty.com/easy/2006/07/post_9de4.html

投稿: Wako | 2006/12/02 10:47

Wako さん こんばんわ。
そうか、あの詩にマインドとハートが、きちんと述べてあったんですね。うっかり見過ごすとこだった。ありがとうございます。

投稿: かわうそ亭 | 2006/12/02 20:44

かわうそ亭さん、かぐら川さん、どーも。
>renqing さん
「こころ」の(2)、中国人の「心 xin」の考察、楽しみです。コメントはあらためて(2)がアップされてからさせていただきますね。

はぁ、それが、知己のnative Chineseにinformantになってもらおうと問い合わせしているのですが、なしの礫でして、(-_-;。少々ゆったりとにお待ち下さると助かります。

投稿: renqing | 2006/12/03 03:04

それは、それは。では、ゆったりとお待ちいたします。

投稿: かわうそ亭 | 2006/12/03 21:48

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