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2006/12/09

暗号名「Wild Fire」は現実か(2)

<スポイル・アラート>
この記事はネルソン・デミルの新作『Wild Fire』の導入部分の内容に触れています。まったく白紙の状態でこの作品をお読みになりたい方はご注意ください。

さて前回の続き。
冷戦が終って世界はより安全になったかというと、なかなかそうではない。
地域的な紛争は別にしても、冷戦時代には想定されていなかった新たな脅威が生まれたのですね。それはソ連の崩壊に端を発している。どうやら行方不明になっている旧ソ連の核があるらしいという事態であります。どこまで信憑性のある話か、わたし自身は判断できる材料がないが、たとえば『Wild Fire』のなかでは、この核は1970年代後半から80年代にかけて製造されたスーツケース型の核爆弾で、行方不明の数は67個なのだとか。

いったいどこへ消えたのか。

ソ連の崩壊後に、このスーツケース型の核が闇市場で取り引きされたというのは、かならずしも荒唐無稽な噂ともいえないような気がします。そういえば、最近もきな臭い事件で注目されたロシアの新興財閥のみなさんは、いきなり国の基幹産業をスタートさせる資本を個人でどこからつくったのかも気になるところ。

というわけで、War on Terrorism の時代の一番の脅威は、テロリストによる核攻撃であります。セキュリティというのは、当然、最悪の事態を想定しておかなくてはならない、ということで、アメリカには現実にNESTという組織が存在し、アメリカの主要都市のどこかににすでに設置された核爆弾をいまも捜索しているのだとか。
NESTは Nuclear Emergency Search Teams の略ですが、映画ファンのみなさんは、この組織が登場する映画を「ああ、あれか」と思い出されるであろう。ニコール・キッドマンとジョージ・クルーニーの「ピースメーカー」であります。核爆弾から出る放射線を探知するためにマンハッタン島をヘリで飛び回っていたチームがそれですが、あれはどうやらフィクションではないらしい。

だから、すでにテロリストの核は西側諸国の主要都市にすでにインストール済みで、いつでも起爆できるようにしてあるのだと、とりあえず最悪の事態を想定してみる。では、そんなことができる資金をもっており、実際にそんなことをしでかすテロリストとは誰のことか、と言えば、答えは必然的に911を発動したイスラームの紳士の皆さんであるということになります。まあ、もしそんなことになっているとすれば、実行犯はその通りであろう。

さて、このように仮定してみると、せっかく冷戦に勝利したにもかかわらず、核戦略上の事態はむしろ悪化していると言うことができます。
なぜなら、第一に冷戦時代は、アメリカ本土で核爆発が起こるまで、少なくとも数分間の大陸間弾道弾の飛行時間がありましたが、新しい「戦争」では、なんらかのアクションを起こす時間はゼロで、気がつくとニューヨークとワシントンとロサンジェルスとシカゴが同時多発的に焼け野原になっていました、ということになります。
そして第二に、核の先制攻撃で本土がやられてワシントンが瞬時に消失したとしても、まだ世界中の海に展開した原子力潜水艦から何千発の核ミサイルを発射して報復はできるわけですが、問題は、そのミサイルを何処に向けて撃つかということであります。
ビン・ラーディン氏からの死の贈り物のお礼は、いったいどこにしたらいいのでしょう。

このように考えると、テロリストが核をもった(と断定していいかどうかわたしはわからないが)現代は、冷戦時代のMAD、すなわち核の抑止力という魔術がきかない世界のように一見思われます。

しかしながら、「いや、そんなことはないよ、MADは、War on Terrorism の時代でも有効さ」というのが本書の背景であり、また前回、申し上げたようにこれから先が不謹慎なヨタ話である所以なのですが、長くなったので、続きはまた次回。

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