『句集 彼方より』
圖子まり絵さんより第一句集『彼方より』(文學の森/2006)をご恵贈いただく。
ご本人には怒られるかもしれないが、何度も句会をご一緒させていただいた方の句集というのは、なんだか他人の作品のように思えない。まるで通い慣れた小径を散歩するような楽しさがあるんだなということが、今回よくわかった。
ただ、ここに収められた俳句のどれもが、じつに滑らかで手触りのよいものだから、はじめてこれを読む人は、あるいは作者はいつもすらすらとこういう句を紡いでいるのだろうと思われるかもしれない。だがそれは違うと思う。
作者は、ご一緒した句会では、ときにあえて破綻して行くような不思議な作句をなさる場合がある。おそらくそれは自分でも思いがけないような詩の核を見つけるための冒険だったのだろう。句会の楽しさは、高得点を得るなんてことよりも、そういう意外な発見のきっかけとなるところにあるとわたしは思う。
そこまではわたしにも見えていたと思うのだが、今回、句集というかたちで作者が二百句を選ばれたものを見て、わたしはあっと思った。
詩の核を見つける楽しさの先に、それを俳句として形作っていく粘り強さというか持続力のようなものがいるんだなと思ったのである。
この句集には破綻していくような作品は皆無である。読んで楽しく面白い。
一見、軽々と詠んでいるように見えるのは、実は作者の推敲の賜物である。
まず句集の春の部、とくにつかみの冒頭三句がいい。
水辺よりチェロではじまる春の章
木蓮の鼓動に白みゆく大和
倖せという無重力春の絮
こうしてあたたかく、しあわせな気分でどこまでも頁をめくっていく。よきかな俳句であります。わたしも、もういちど俳句やってみようと思った句集でありました。
あと気に入ったものをいくつか抜いておきます。
マニキュアの指が眩しい葱坊主
泣きに来た大音声の蝉の森
異教徒をかくまうように花茗荷
四捨五入して善女です沙羅の花
スフィンクスくすくす笑う鰯雲
懐に寒月抱いて先斗町
弦一本切って助走の鶴となる
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コメント
どうも。かぐら川さんの当方へのコメントリンクで来ました。TBもつけちゃいました。よしなにどうぞ。
投稿: renqing | 2007/01/12 03:18
renqing さん
どうも、どうも。そういえば、自分の他のエントリに結びつけちゃうのもどうかと思うが、ウッドハウスがやはり春風駘蕩な文体とは裏腹に、かなり文章に呻吟していたという解説を読みました。さもありなん、ですね。
投稿: かわうそ亭 | 2007/01/12 23:45