ウッドハウスについて
その作品を読むたびに、P.G.ウッドハウスについて何か書こうと思うのだが、これおもろいよね、という以外にあまり書きたいことがないので、いつもそのままになっている。
「書く」ことがない、というのではない。
第二次大戦中に不幸にもフランスから脱出が遅れたためにナチ協力者よばわりされたことだとか(ためにかれはイギリス国籍を外れてアメリカ市民となった)、そのとき左翼陣営から、そもそも、こんな貴族階級や金満家をキャラクターにした小説はファシズムの温床であるなんていいがかりをつけられて、魔女裁判もどきに起訴されそうになったとき、まっ先に反対したのがジョージ・オーウェルだったなんてことだとか、この先生のつくったバーティという気のいい若主人と従僕ジーヴスのキャラクターが、カズオ・イシグロの『日の残り』のヒントになったらしいとか、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿ものの原型もこの先生の作品であるとか、他にもいろいろ、いかにも「わたし好み」の話題には事欠かないのだが、そんなこたぁ、どうだっていいじゃねえか、おもろいよ、これ、という以外には「書きたい」ことがいつもないのである。まったく困ったことである。
つまり、そういう小賢しいことを書くのがめんどくさくなるくらい面白いのである、ということで勘弁していただこう。
昨年来読んだのは、まずバーティとジーヴスものを国書刊行会が「ウッドハウス・コレクション」と冠して次々に出しているもののなかから以下の5冊。訳はいずれも森村たまき。
『比類なきジーヴス』
『よしきた、ジーヴス』
『それゆけ、ジーヴス』
『ウースター家の掟』
『でかした、ジーヴス!』
シリーズはあと『サンキュー、ジーヴス』と『ジーヴスと朝の喜び』と続くらしいが、後者はたぶん未刊のはず。わたしは『サンキュー』の方は次回はPBで読もうかなと思っている。
ほぼ時期を同じくして文藝春秋から「ウッドハウス選集全三巻」が出ている。
それぞれ、『ジーヴスの事件簿』、『エムズワース卿の受難録』、『マリナー氏の冒険』だが、どうやら最後の巻は未刊の模様。翻訳は岩永正勝と小山太一の共訳。
じつは、『エムズワース卿の受難録』の出来が素晴らしかったので、もう我慢できずに他の巻も買いに難波のジュンク堂まで出向いたのだが、上記の国書刊行会のシリーズと文藝春秋の選集が並んだ棚には『マリナー氏の冒険』はなかったのであります。
『ジーヴスの事件簿』だけを買って帰ったのですが、これには「おまけ」として吉田健一の文章とイーヴリン・ウォーの「P.G.ウッドハウス頌」というBBC放送用の文章がついているのでなかなか豪勢な本となっています。
で、いま読んでいるところですが、本書には上記の国書刊行会の「コレクション」と同じものが収録されているので、どうしても、翻訳(の違い)ということに思いが走るのはやむをえない。
というあたりを、明日また書きます。
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コメント
あけましておめでとうございます。
いつも読み逃げで失礼してますが、今年もよろしくお願いします。
文芸春秋社の2冊は私も読みました。
面白いとしか感想の書きようがない本やなあ、と私も思いました。
ジーヴスもですが、とりわけエムズワージー卿が可愛い~。
投稿: なぎ | 2007/01/04 00:54
なぎさん 今年もよろしく。
わたしもエムズワース卿が断然気に入りましたね。大好きなまるまる太った豚ちゃんと巨大カボチャと美しい庭園に囲まれて、他人にわずらわされることなく、ただのんびり暮らすことだけがささやかな願い。なんせ、わしの脳みそは綿菓子みたいにふわふわしておるのだもの、なんてあたりは、とても人ごととは思えない。(笑)
投稿: かわうそ亭 | 2007/01/04 08:12
いつもお邪魔させていただいてます、本年もどうぞよろしくお願いします。
ウッドハウスは未読で、ただただカズオ・イシグロだけを頼り(?)に無理矢理書き込みの口実を作りました。(笑)
昨年の読書では、彼の『私を離さないで』が、1番になりそうだったのが、秋にイアン・マキューアン『贖罪』を読み、逆転しました。もちろん、かわうそ亭さんの記事に触発されて読んだのです。
どうぞ今年も、私の読書ナビとして、導いてくださいますよう。
投稿: Wako | 2007/01/04 10:05
Wako さん
そうか、カズオ・イシグロの『私を離さないで』が出ていましたね。そのうち読んでみよっと。『贖罪』気に入っていただけたようで嬉しいです。感想書いてよかった。
では今年もどうぞよろしく。
投稿: かわうそ亭 | 2007/01/04 14:01