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2007/01/08

「寅さん」という季語

テレビ朝日の「芸能人雑学王最強No.1決定戦」を見ていたら、敗者復活戦の「ウソ、ホント」クイズというのをやっていた。爆笑問題の太田光が出題する問題がウソかホントか、失格したタレントたちが自分が思う方に移動して、敗者復活の枠を絞って行くという趣向である。
こういうのはなんとなく気になるもので、ふーんとか言いながら見ていたら、何問目かに俳句の問題というのが出た。
こういうのである。(テレビ朝日の公式番組サイトからコピペする)

<問題>
俳句には季節を表す「季語」があります。こちらのように、春を表す季語には「桜」、夏を表す季語には「入道雲」、秋を表す季語には「月見」などがありますが、実は、冬を表す季語に、映画“男はつらいよ”でおなじみの「寅さん」という季語がある。ホントかウソか?

クイズ番組の作り方からいえば、俳句みたいな権威的でうるさそうな世界で、そんなさばけた粋な計らいはないだろうから、みんなに「ウソ」と思わせて実は「ホント」でした、という流れだろうとまず予想できる。
だが、ここでわたしは記憶の底を浚ってみたが、「寅さん」を冬に入れたような歳時記はみたことがない。そんなものがあれば、「おやおや」と覚えているはずだ。
ということは、上記のような番組のつくりかたから推理する奴のさらに裏をかく出題か、こりゃ、なかなか、あなどれないな。これは「ウソ」が正解だぁ、と、がってん手のひらを叩いた。

俳句ファンのみなさんはどうお答えになるだろうか。

ところが「正解」は「ホント」だというのですね。へぇ?

ということで、なぜこれが「ホント」であるのか、番組の解説を、上記と同じようにコピペしてみよう。

「寅さん」は本当に冬の季語としてあるんですね。
(黛まどかさんが主催していた俳句サークル「月刊ヘップバーン」にて認定されている。)
へぇ〜!!
映画「男はつらいよ」が毎年の正月映画として定着していたことから、「寅さん」が冬の季語となったんです!
すごいよね〜!!    

いや、ほんとにすごいですね、別の意味で。それ以上みる気が失せたのは言うまでもない。(笑)

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コメント

遅ればせながら今年もよろしくお願いいたします。
さて、「寅さん」は僕も好きで学生時代から良く観ていましたが、これが冬の季語に入っているとは驚きました。ちょっと嬉しい気がしますね。
今年も楽しいブログ期待しています。

投稿: maru | 2007/01/08 23:34

maru さん
今年もどうぞよろしく。
ははは、今回のエントリーは、俳句ファンにとっては、いわゆる「ビミョー」という奴でありまして。
「月刊ヘップバーン」については、こちらに、その終刊の模様を書いていますが↓
http://kawausotei.cocolog-nifty.com/easy/2006/03/post_2c66.html
代表をされていた黛まどかさんというのが、たいへん写真写りがよい方で、そのやっかみなのか、いや、そのおつくりになる俳句がいわゆる「権威」ある俳壇のみなさまのお気に召さないのか、あんなのは俳句ではないという声が俳句の世界ではあるようでして——。
じつは、わたしも、図書館で「月刊ヘップバーン」は読んでいましたので、このサークルの方たちが「新季語」という提案をされていたことは知ってはいたのです。たしかに「寅さん」もあったように記憶してはいたのです。
しかし、言ってみれば大学のサッカー同好会の人が、新しいオフサイドのルールを提唱したようなものですから、「季語になったのです!」とテレビで言われては、たぶん、黛まどかさんがいちばん冷や汗をかいておられるでしょう。(笑)
わたしも寅さんはよく見ました。リリーからの求婚を「はは、おまえ冗談だろ。ほらサクラやヒロシみてえな堅気衆が本気にするじゃねえか」「—そうね、冗談よ」という場面が大好きで。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2007/01/08 23:57

なるほど。黛まどかさんをTVで見たことがあり、俳句の世界は全く知りませんが、おそらくそのような位置づけであろうかと推測しておりました。クラシックの世界でも近年アイドル歌手か?と思えるジャケットで売り出す傾向多々ありますね。古典の世界の品格と商売との関係もまた少しづつ変わっていくのでしょうね。

投稿: maru | 2007/01/09 00:32

「寅さん」が季語になっているとは驚きました。しかし「寅さん」は、一時期夏と冬に上映されていたのではないでしょうか。冬の季語ということは、ある時期以降のことなのでしょうか。「釣りバカ」なんていうのもそのうち季語に??

投稿: 烏有亭 | 2007/01/09 21:20

烏有亭さん どうもです。
えっと、すこし真面目にお答えしておきますと、季語というのは、もともとは和歌の季題(たとえば雪月花)から俳諧連歌へ受け継がれた伝統文化であるという思いが、俳句の人にはひじょうに強くありまして、新しい現代語を季語として受け入れることには慎重なのです。
しかしながら、一方では、芭蕉の「俳諧の益は俗語を正すなり」という揚言にありますように、現代語を詩の言葉にまで高めることも俳人の野心なのですね。
ですから、新しい言葉が「季語になった」というような場合には、その言葉でなければ表しえないような時代を画すほどの名句とセットになっていることが、まあ条件になるんですね。
よく例としてあげられるのは、中村草田男の「萬緑」。

 萬緑の中や吾子の歯生え初むる

なるほど、これは「萬緑」という言葉以外はここに入らない、という風に評価されてこれ以降「萬緑」はどの歳時記にも季語として採用された。

ですから、まあ「寅さん」という言葉をつかって、だれでもその句を唱えればある情感が季感や美意識として浮んでくるような句があれば、季語になった、といってもいいと思います。まあ、そんなわけで、このクイズのように「月刊ヘップバーン」が認定!なんてやられると、まあ、苦笑せざるを得ないというわけなんですね。
それと烏有亭さんがおっしゃるように、そもそも寅さんをお正月映画だけに付けようとするのは、もともと無理があります。
寅さんは(少なくともまだ)季語ではない、というのが控えめに言っても俳句愛好者の平均的な意見ではないかと愚考いたす次第です。

投稿: かわうそ亭 | 2007/01/09 22:18

かわうそ亭さん、教えていただきありがとうございます。季語が季語として定着するまでにもいろいろな経緯があるのですね。中村草田男の句のように季語を「生み出す」ものもあるのですね。この辺はいろいろな新語を造り、それが広く認知されるに至った漱石のような点があると思い、興味深く感じました。

投稿: 烏有亭 | 2007/01/09 23:31

「寅さん」が季語に!
まあ、大勢が認めたら季語に成るのかな。
実際、「寅さん」の映画はお盆にも封切りされたけど、今となって思い出すのは正月。荒川の土手で凧揚げしている風景など。
でも、黛まどかさんと結び付けられると、認めないって人が大勢を占めるのかも。
それにしても、暖冬などの気象異常は季語にも影響するのでしょうね。

投稿: やいっち | 2007/01/12 09:37

どうもです。
季語については新暦と旧暦という問題に加えて、そういえば確かに、大きな気象の変動ということもありそうですね。とくに冬の句はもう北海道のみなさんにおまかせするしかないかもしれない。(笑)

投稿: かわうそ亭 | 2007/01/12 23:49

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