あまりに英語過ぎる
『Thank You, Jeeves』P.G. Wodehouse(Penguin Books)を読む。
お気楽独身男のバーティが、自ら招いた災難に右往左往、どんどん深みにはまって抜け出せなくなったところで、天才トラブルシューターのジーヴス登場といういつものオハナシ。今回、ちょっと趣向が変わっているのは、ジーヴスがバーティのもとを去って、別の主人に仕えることになるのでありますね。なんでそういうことになったのかは読んでのお楽しみということで、ここには書きませんが、バーティの愛すべきバカぶり(と騎士道精神)は本書でもいかんなく発揮されて、全編を通じてくすくす笑いながら読み終える。
230頁ほどのペーパーバックなので、すぐ読めるだろうと思ったのだが、これがイギリス英語なのかなあ、わざと難しい単語をつかって会話をするものだから、(文脈でおよその意味はわかるのだが)いちいち辞書を引いて、へえ、こんな言い回しがあるのかあ、と感心したりして時間がかかる。まあ、こういう英語のお勉強も悪くはないけれど、はっきり言って、いまどきこんな大層な英語を使ったら、(芝居がかった外交官やら政治家ならばともかく)普通の人々の交際では大笑いされるのがおちだろうからあまり役には立たない。現に、本書のなかで重要なキャラクターとしてアメリカ人の大富豪が出てくるのだが、ジーヴスの婉曲な言葉遣いにいらいらしたあげく、「貴様、オペラかなにかやってるのか」と怒鳴ったりする。1930年代の話だが、すでにこの時代で、アメリカ人からみたら、大仰なわざとらしい言葉遣いであったことがこれからもわかる。およそ、実際的な英語ではないんだろうなあ。まあ、そういう意味では貴族だとか執事(ジーヴスは厳密には執事ではないけれど)などいう存在自体が実際的なものではないわけでありますね。しかし、そういう実際的でないものには価値がないと決めつける人や社会は経済的に豊かであっても、ほんとうは貧しいよなあ、と負け惜しみ。(笑)
参考までに、上記のアメリカの大富豪が怒った箇所はこんな感じ。
'Excuse me, sir' he said, shimmering towards old Stoker and presenting an envelope on a salver. 'A seaman from your yacht has just brought this cablegram, which arrived shortly after your departure this morning. The captain of the vessel, fancying that it might be of an urgent nature, instructed him to convey it to this house. I took it from him at the back door and hastened hither with it in order to deliver it to you personally.'
{snip}
'What you mean is, there's a cable for me.'
'Yes,sir'
'Then why not say so, damn it, instead of a song about it. Do you think you're singing in opera, or something? Gimme.'
もうひとつだけ。バーティが上記の大富豪のヨットに招待されたときの返事。7時にお越し下さいという手紙をもってきた使者(ジーヴスが使者になるのだが)に対して。
Well, tell old Stoker that I shall be there at seven prompt with my hair in a braid.
いや、残念だが使う機会はまずないだろうなあ。(笑)
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