胡志明生誕107年
Wikipediaによれば、昨日は胡志明の誕生日だったようです。
1890年5月19日(ただし異説もある)生まれ、亡くなったのが1969年年9月3日でありました。
この人はベトナム人の共産主義者で、コミンテルンの常務委員。モスクワ、延安、雲南省などで活動をしていましたが、1941年の日本軍の仏印進駐に際して、中国の国民党の支援を得ようとしたところ、コミュニストの影響力を嫌う国民党の軍閥に拘束され投獄されます。もともと、この人はベトナムの儒学者の家の出でありましたので、漢字の読み書きには不自由をしない。獄中で仕方がないからいくつも漢詩をつくって無聊をなぐさめた。
次の詩もそのひとつ。
清明 胡志明
清明時節雨紛紛 清明の時節 雨紛紛
籠裏囚人欲断魂 籠裏の囚人 魂を断たんと欲す
借問自由何処有 借問す 自由 何れの処にか有る
衛兵遥指弁公門 衛兵 遥かに指す 弁公門
とくに解説は必要なさそうですが、最後の弁公門は刑務所の門のこと。
いったい自由はどこにあるかと看守に聞けば、あの門くぐれば自由があるさ、さっさと転向するんだね、てな感じでしょうか。
ところが、この詩、見る人が見ればにやりとする。晩唐の詩人、杜牧の有名な「清明」のパロディであるからです。
清明 杜牧
清明時節雨紛紛 清明の時節 雨紛紛
路上行人欲断魂 路上の行人 魂を断たんと欲す
借問酒家何処有 借問す 酒家 何れの処にか有る
牧童遥指杏花村 牧童 遥かに指す 杏花の村
獄中でこんな洒落たパロディができるものかどうか、まあ、作り話かもしれないが、それくらいこの時代の人は中国人でなくとも漢詩ができたわけですね。日本人もまたこれに同じ。
ところで、胡志明と書かれると誰のことかいな、と思われるでしょうが、ご賢察のとおりこれはホーチミン、ベトナム共和国初代大統領閣下であります。
以上、元ネタは昨日に引き続き『漢詩逍遥』(藤原書店)。例によって、一海先生の随筆はおもしろいよ。
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