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2007/05/12

安楽椅子探偵の女王蜂

ちょっと前にNHKの衛星映画劇場で市川崑の金田一シリーズをやっていたのでご覧になった方も多いだろう。
今回放映したのは「犬神家の一族」(1976)「悪魔の手鞠唄」(1977)「獄門島」(1977)「女王蜂」(1978)「病院坂の首縊りの家」(1979)の5本。
こうして製作年度を並べてみると懐かしい。この頃はレンタルビデオやDVDなんてものはなかったから、よく映画館に足を運んだものである。

一番はじめに読んだせいかもしれないが、横溝正史の金田一シリーズで、わたしが一番いいと思うのは『悪魔の手鞠唄』であり、市川監督のシリーズの中でもこれが一番いいような気がする。
まあ、これは好き好きだとは思うけれど。

ところで、今回の放送で女王蜂をあらためてじっくり見たのだが、しばらくしてから、登場人物のある設定がちょっと気になった。―といっても、べつにたいしたことではない。多少、ネタバレに近い話題になるが、あの映画に東小路公爵家という京都の華族が登場しますね。映画ではたしかこの東小路家は御一新の前は北陸の大名家であったということになっていたかと思う。犯人はこの東小路家に対して深い恨みを抱いていたことが大団円で明らかにされるわけですが、それを象徴するかのようにフラッシュバックで挿入される冬の暗い日本海の情景がなかなかよかった。

気になったのは、この東小路家というのはもしかしてモデルがあるのではないかなということでありました。ただし映画のような卑劣な出来事が実際にあったとかなんとかそういうことを考えたわけではない。単純に北陸の大名で維新後に伯爵になったような人があったことをたまたま別の本で知ったために、ああ、もしかしてこれを使ったのかなと思ったというわけ。

以下は、水上勉の『日本の風景を歩く/京都』(河出書房新社)の「あとがき」から。

京都の禅宗では小僧を入れるのに、若狭の子で、一年生の時「酒井家賞」をもらった子の中からえらぶ風習があって、私はその年の該当者だったにすぎない。貧乏人の子でも、もらった以上は本山は中学を卒業させるつもりであったから、読み書きのできる子をはかるのに「酒井家賞」は目安になったといわねばならない。酒井家とは若狭藩の旧藩主で、牛込矢来町に当時講正学舍をもち、大学へも入れてくれることで、若狭の子らの学業を援助した。私はその「酒井家賞」をもらった縁から京都相国寺の塔頭瑞春院の小僧になれたのである。

水上勉の文章では若狭藩主となっていますが、これはどうやら若狭小浜藩主の酒井家のことだと思われ、この酒井家は明治になって伯爵家のひとつになっていますので、映画の東小路家の設定にも符合します。映画の中で金田一耕助が遠い過去の悲劇を調べるために赴いたのは、若狭だったように思うのですが(ここはあまり自信がないけど、わざわざDVDを借りてきて調べるほどの気力はないので、違っているかもしれない)そうであれば映画の東小路家のヒントになったのは、これではあるまいかと思ったのですね。
もうひとつ、映画のなかでもこの伯爵家は地元の貧乏な学生を金銭面で支援してやっていたような感じがあってその面でも水上勉の「酒井家賞」とうまくつながるような気がします。

さて、ではこの東小路公爵家が北陸のとある藩の旧藩主である(あるいははっきりとこれが若狭小浜藩であると特定されていたかどうかはっきり覚えていないのですが)という映画の設定がいささか気になったわたしは、本屋に行って『女王蜂』をざっと斜め読みしたのですね。(買えよ(笑))原作の中に具体的な地名が書かれているだろうかと思って調べたわけであります。
ところが、ざっとあたった限りでは、この犯人が東小路家の過去に遡る遺恨を抱いていたという設定は見当たらない。ちなみに原作では東小路伯爵家ではなくて、衣笠宮という皇族の設定になっていますな。
この小説、わたしは若い頃に読んでいますが、映画は原作の通りだという風に思い込んでいたので少し虚をつかれました。

そして、ここからがわたしの安楽椅子探偵としての推理なのですが、もしこの設定が映画のオリジナルだとしたら(どうもそのように思えます)そのアイデアの元ネタはもしかして水上勉の作品群にあるのではないか。
ということで市川崑と水上勉との接点はないか、早速調べてみました。以下は映画化された水上作品リストです。監督と主演女優のみ。(こういうときにインターネットは便利である)

 五番町夕霧楼/田坂具隆/佐久間良子
 雁の寺/川島雄三/若尾文子
 はなれ瞽女おりん/篠田正浩/岩下志麻
 飢餓海峡/内田吐夢/左幸子

いやあ残念ながら市川崑は一本もメガホンをとっていませんね。しかし、これだけ映画化されていれば映画人として市川崑も水上作品に無関心ではなかったのではないか。まして市川崑には三島由紀夫の『金閣寺』を映画化した「炎上」がありますからね。水上勉のことはよく調べたに決まっていると思うのですがどんなもんでしょう。

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