On Chesil Beach by Ian McEwan
They were young, educated, and both virgins on this, their wedding night, and they lived in a time when a conversation about sexual difficulties was plainly impossible.
イアン・マキューアンの『ON CHESIL BEACH』はこんなふうに始まる。ペーパーバックで170ページばかりの中編小説である。
1962年の夏、ドーセットの海岸沿いのホテルに投宿した新婚夫婦の初夜を克明に描く—なんて言うと、うーん、あんまりいい趣味じゃないな、と思われるかもしれないが、たしかにそんな面もないとはいえない。
実際のところ、この小説は一歩間違うと、ポルノグラフィーになりかねないし(その性描写が「法医学」みたいだなんて書評もある)、またコメディーにしてしまうことだって十分に可能なんだけど(「ひとのセックスを笑うな!」)、読後の印象はまったくそういうものとは異なる。
すごく苦いんだけど、それが不快な苦さではなくて、気がつくと清々しい記憶になってあとにのこる、そんな感じと言えばやや近いかもしれない。
先日、行方先生の英文の読み方の本で、反省しきりでありましたので、この本は(短いこともあり)自分としてはかなり精読したつもり。また、物語の性格から言って、過去完了や仮定法を意識して読む必要がありまして、なかなか英文読みの訓練には向いた作品だと思いました。その典型的な例は、結末の部分なので、ここでそれを引用しようかとも思ったのですが、いやいや、それはネタバレになって具合が悪いなあと思い直しました。
いずれにしても、ゆっくり読み込むと、どの文章もしみじみ味わい深く、ラストのページまできて、おもわずこころを激しく揺すぶられて泣いてしまう、じつに見事な小説でした。
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コメント
かわうそ亭さま、おじゃまします。
昨日でしたか、TVで、マキューアンの『贖罪』の映画化を知りました。映画のタイトルは『つぐない』だそうです。見ようか、どうしようか。
英語版ペーパーバックを読めるようになるのは夢です。マキューアンには、『The Daydreamer』という読みやすそうなものも、あるようですが・・・
投稿: Wako | 2008/02/15 17:32
このエントリーを読んで思わずアマゾンでクリックしてしまい今日、本が届きました。でも、ある程度まとまった量の英語は教科書以外に読み終えた事がありません。でもかわうそ亭さんの書評を読むと時々すぐに反応してamazonに行ってしまいます。1年後でも感想を書きに再びこのエントリーに戻ってこられると良いのですが・苦笑
投稿: たまき | 2008/02/15 18:39
Wakoさん
映画「つぐない」はなかなかよさそうですね。ゴールデン・グローブ賞では、最優秀作品賞を受賞したとか。わたしは公開されたら早速見に行くつもりで、いまから楽しみです。
こちらにスチルとトレーラーが。↓
http://www.cinema.janjan.jp/0801/0712167360/1.php
たまきさん
最近はやたらと分厚いペーパーバックが(文字通り)「幅を利かせて」いますが、あれはどうも野暮ですね。
『On Chesil Beach』は薄くて軽いのがカッコいいと思うのですがどうでしょう。ゆっくりお楽しみくださいませ。
投稿: かわうそ亭 | 2008/02/15 21:33