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2008/02/19

句会小説はいかが

Haihu3reija1_2 これまでありそうでなかった小説というのは面白い。
三田完の『俳風三麗花』(文藝春秋)は帯のキャッチを引けば、「本邦初の句会小説!?」。
本邦初かどうかはともかく、たしかに俳句の世界をモチーフにした小説は珍しくはないが、本書のように句会そのものに焦点をあてた小説は、わたしはほかに知らない。

オハナシは、昭和七年の梅雨明け前後から昭和九年の立春までの東京を舞台にした、五話の連作短編である。
五・一五事件や松岡洋三の国際連盟脱退、滝川事件に小林多喜二の虐殺、満州国建国、皇太子誕生の提灯行列などがこの物語の時代背景として走馬灯のように流れてゆく・・・

日暮里の暮愁庵で毎月開かれる句会は、主人の暮愁先生がやもめの数学教授。写真館の主である穂邨や古本屋の南海魚、三井合名のサラリーマン、政雄、筆職人の銀渓などの俳句好きにまじって、なぜか妙齢の美女が三人加わった。暮愁先生の友人だった父の遺志をついで俳句に精進するちゑ、震災で両親を亡くした女子医専の学生である壽子(ひさこ)、それに浅草の花柳界をこれから背負って立つという松太郎姐さん—というわけでこの三麗花の恋模様と俳句がちょっぴりくすぐったいタッチで描かれる。
これはなかなか拾い物のよい小説。

本書では暮愁先生はホトトギス会員で、虚子からもその力量を買われているという設定なので、おそらく暮愁庵句会の手順は、ホトトギス系の結社に共通のものだろう。

全員がそろうと、最初に暮愁先生が半紙に席題などをさらさらと書いて鴨居に鋲留めする。

  席題 端居 守宮
  投句 各一句
  〆切 二時
  選句 三句(うち天一句)

一時間で席題の二句をつくって投句する。投句は半紙を切って作った短冊で行う。
誰の句かわからないようにするために清記を行うが、達筆の筆職人銀渓さんが半紙数枚に墨書し、席題を書いた紙の隣に張り出す。(いまはコピー機で人数分焼くことが多いだろう)
つぎに各人は三句選んであらかじめ配られた句箋にその句を記入し選者である自分の名前を右下に記す。選んだ三句のなかでもっともよいと思う句の上に「天」と書いて提出する。提出するのは披講の係の人の前である。
披講係は声のよい政雄さんで、まず披講係その人の選からはじまる。並選ふたつを読んでから天を読む。
披講係によって自分の句が読み上げられた作者は、すかさず「松太郎」というように自分の俳号を名乗ることになっている。
一通り披講が終わると、自分の句に天がいくつ並選がいくつ、というように、その日の成績があきらかになるので、最後に合評に移る。
とまあ、これが普段の暮愁庵句会の進め方である。

気づくのは、席題が季語であること。わたしが参加する句会では逆に季語は席題にしないのが普通。それから、投句数が一時間で二句ということ。これはかなり少ないね。わたしの知っている句会では一時間で六から八句くらいを課すことが多い。これはつまりじっくり時間をかけて推敲することを重視するか、一種の自動筆記のような効果を狙って自分でも意外な詩想の発見の機会を重視するかということの違いかもしれない。
あとは披講のやり方。これはこの時代のホトトギスの方式だろう。わたしたちの場合は、岩波新書の『俳句という遊び』方式である。つまり、作者を伏せていろいろ講評をおこなってから、ではこの作者はどなたでしたか、と聞いていくやり方だ。

いずれにしても、句会の模様が物語の付け足しではなくて、むしろ軸であることや、俳句好きの人間の心のうちがよく描かれていることなど、出色の俳句小説ではあるまいか。

なお本書は昨年の直木賞の最終選考に残った作品である。もし受賞していたら、低迷気味の俳壇のカンフル剤になったかもしれないなあ。

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コメント

おもしろそうな本をご紹介いただきありがとうございます。
私も、昨晩一冊俳句関係の本を読み終えました。
磯辺勝著 『江戸俳画紀行  -蕪村の花見、一茶の正月』中公新書
伝統的な俳画は見る機会が少ないので、この本の口絵は勉強になりました。

投稿: kuniharu shimizu | 2008/02/20 09:14

おはようございます。
『江戸俳画紀行』は、まだ出たばかりのようですね。なるほど、面白そうです。早速、買ってこよう。ありがとうございました。

投稿: かわうそ亭 | 2008/02/20 09:31

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