俳句鑑賞450番勝負
中村裕『俳句鑑賞450番勝負』(文春新書)は「海」「酒」「生死」といった30のテーマを設け、それぞれのテーマごとに15句、全部で450の俳句を取り上げている。
選んだ句には短い解説(半頁くらいの分量)をつけているが、その文章の中にも別の句が三、四句はいっていたりするので、数えたわけではないが、この本一冊読めば、見当としてはおおよそ1500句くらいを知ることになるのではなかろうか。
よく知られた定番のような句もあれば(たとえば後藤夜半の「滝の上に水現れて」とか)だれも知らないはずの句もある。
ただ、誰の句を取り上げるかについては、はっきりとした傾向がある。これを手っ取り早く説明するには、巻末の索引で、俳人ごとにいくつの句が紹介されているか、多い順に並べてみればよい。
上位3人は次の通り。
三橋敏男 21句
渡邊白泉 14句
西東三鬼 12句
このあとに多いのは7句で、阿波野青畝、池田澄子、石田波郷、高屋窓秋、遠山陽子、永田耕衣、中村草田男、山口誓子といった俳人が並ぶ。
著者の中村さんには同じ文春新書から『やつあたり俳句入門』という好著がある。四年前の旧かわうそ亭読書日記(2004年9月24日)にこんな感想を書いた。(一部抜き書き)
ホトトギスの世襲制の家元制度を真っ向からくだらないと言い、日本伝統俳句協会なんて名乗りのいけ図々しさを批判し、山本健吉とかれによって勢力を固めた戦後の大家たちの去就に疑問を投げかける。なにごとも旗幟鮮明は気持ちのいいもので、本書を読む快感はそこにありそうだ。
豊かな詩的精神を現代俳句が身につける可能性が過去にあったとすれば、それは新興俳句運動が立ち上がった時点であり、その代表的な作家は渡辺白泉だったというのが、著者(とおそらく師の故三橋敏雄)の立場のようだ。新興俳句運動は戦中の軍国主義によって弾圧されたが、この時代に俳句の水源をもつ戦後の大家たちが口をぬぐって新興俳句運動に正当な評価をしてこなかったことが、いまの俳壇の問題だという指摘は傾聴に値する。
『俳句鑑賞450番勝負』の元になったのは、三橋敏男がやり残した仕事(「昭和俳句栞草」)だったようだが、選句の姿勢は上記の考えにつきる。「450番勝負」なんて言い方自体に、「ホトトギスだとぉ、てやんでえ」みたいな感じがないでもない。もちろん、稲畑汀子は一句も入っておりませんよ。(笑)
ただし、そういう傾向の割にはあまり偏った感じはなくて(つまりアレはあってもなくてもかまわないんだなきっと)むしろ目配りはよく利いているから、俳句好きの人にも、これから俳句を知ろうという人にも、これはたくさんの句を読んで憶えたりするうえでとても重宝するのではないかと思うな。
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