王妃と首斬り役人
池内紀・文、喜多木ノ実・画の『ドイツ四季暦 秋/冬 海から街へ』(東京書籍)より。
アウブスブルクのシェツラー宮殿にあるバロック美術館には、ウルリヒ・マイル作の「首斬り人の肖像」がある。一六五四年の制作で、三十年戦争直後に描かれたものだ。上半身裸の青年が、首斬り用の刀を突きたてて立っている。ととのった顔で、髪は長く、肩と胸がたくましい。革手袋をつけた左手を軽く腰にそえている。
フランスのブルボン家に輿入れをする道中のハプスブル家の王女が、1770年に、この街を通ったときにこの絵が古物商の店先に飾られているのを見つけた。なぜか魅せられて、欲しいと言った。他人の預かりものなので売ることはできませんと断られた。
それから23年後。
パリの革命広場に断頭台が作られていて、代々の首斬り役人であるサムソン家の者が首をはねる。そのときは若いアンリ・サムソンが当番だった。美貌で、たくましく、そのため群衆に人気があった。アンリ・サムソンは上半身裸で、両手に革の手袋をはめ、刀を杖のようについて断頭台に立っていた。その姿は、アウグスブルクの肖像に見たものと瓜二つだった。マリー・アントワネットは、よほどおどろいたのだろう、ひざまずこうとして、ヨロヨロとよろけ、おもわずサムソン青年の足を踏んだ。
「失礼(パルドン)、ムシュー」
このひとことが、王妃の最後のことばとして歴史に伝わっている。
連休の最終日だったので、一日、カウチに寝そべって『ベルサイユのばら』全5冊を読む。いやあ、おもしろいね、これ。
はじめの方は、まあ、ひやかしで読み始めたのでありますが、三部会招集のあたりから、俄然面白くなりまして、このフランス大革命の熱と、オスカルとアンドレの運命が、共振するかのように進んでゆく展開にはマイッタ。やっと長年の宿願(というほどおおげさなものではないが)を果たすことができました。(笑)
一応、わたくしツワイクの『マリー・アントワネット』と『ジョセフ・フーシェ』も読んでおりますが、このマンガ、なかなかあなどれません。なによりこの情熱には敬意を表します。
ところで最終巻、断頭台上に、王妃とたくましい首斬り役人とを、池田理代子さんも描いておられますが、このエピソードはこの傑作には入っておりませんね。残念!
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