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2008/06/09

素晴らしきニッポン裁判

神戸女学院大学の広報誌「Vistas」6月号に「司法通訳と公正な裁判」と題して、同大学文学部英文学科の長尾ひろみ教授のインタヴューが掲載されていて、これがなかなか興味深い内容だった。

日本語のわからない人がなんらかの事件にかかわって、被告として裁判にかけられる場合には、通訳がつく。これを司法通訳という。
近年、こういう司法通訳を必要とする事件が増加の一途をたどっているのだそうな。
たぶんそうなんだろうな、とわたしなども思う。
しかも、来年からは裁判員制度の運用がはじまるわけだが、これによって日本の裁判はこれまでのガチガチの書面主義から口頭主義へと大きく舵をきることになるらしい。
こうなると、日本語がカタコト程度の人はかなり怖いでしょうね。

私も当初は裁判の流れも何もわからず、ただ訳せと言われる部分を訳すのに精一杯でしたが、大概の被告はぶるぶる震えています。それはそうでしょう。何を言っているのか全然わからない状況の中で自分が裁かれようとしているんですから。

こういうのは被告にとっては、きっと悪い夢をみているような感じかもしれない。
逆にわたしたちが裁判員だったとして、被告が日本語のできない人間であれば、わたしたちは司法通訳が訳として用いた日本語をその被告の言葉として判断するであろう。
長尾さんの司法通訳の体験談として、万引きをくり返しているマレーシア人の女の話がある。裁判官が「なんでそんなことをしたの?」と訊く。「Why did you do that?」と訳すとその女が「Because it was interesting.」と答えた。
これは困るね。長尾さんによれば、司法通訳というのは本人に真意を聞き質しながら訳すことはダメなのだそうです。なんでもそういうのは私語になるらしい。司法通訳はあたかも翻訳機のように外国語の話を日本語に、日本語の話を外国語に変換するだけしか許されない。
しかし、話には文脈というものがある。まして裁判である。「おもしろかったから」なんて言うのはヘンである。
この場合は、裁判官に「interestingという意味が訳せません」といったん返す。裁判官が本人に「もう一度説明してください」と言う。本人がもう一度話す、というかたちをとることになるのだそうですね。
たまたまこの場合は、この女、マレーシアと違って日本のパンにはいろんな動物やアンパンマンのかたちのものがあって子供がよろこぶ。それがとてもinterestingだったということであったらしい。
まあ、このあたり、疑りぶかいオッサンにはちと額面どおりには受け取れないものもあるが(笑)、それはそれとして、かように司法通訳はその人の資質なり職業倫理(むしろ上記の場合はこれだろうと長尾さんは言っておられるようです)によって歴然とした差が出てくるようであります。

ちなみに、このインタヴューによれば、日本の大学で司法通訳を教えているのは3校しかないのだそうですよ。
大丈夫か?日本語のあやしいガイジンのみなさん。(笑)

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f)国際・政治・経済」カテゴリの記事

コメント

とても興味深く拝読しました。

以前、ポルトガル語を専門としている方から似たような話を聞きました。通訳者のコミュニケーション能力も重要でしょうが、通訳としての訓練がなされていないと勘所がわからなくて、つねに誤訳の可能性があるという点も問題でしょうね。珍しい言語の場合は大学の研究者などに通訳の依頼が行くことが多いようですが……。

というわけで、ぜひわたしのMIXI日記にて紹介させていただきたいのですが、ご許可いただけますでしょうか?

投稿: 一平(^_^)v | 2008/06/10 02:29

こんにちわ。通訳というのは、わたしたちがよく見かけるのは、プロ野球のヒーロー・インタビューとか、バラエティ番組に出演した映画スターについている人なんかですが、逐語訳ではぜんぜんないけどまあ文脈重視というか、日本語のなかでの会話の流れをスムーズにすることに重点がおかれているような感じを受けますね。しかし、ああいう感じで裁判の通訳はやっていいのか、いやむしろああいう感じの方が被告に有利なのか、よくわかないですねえ。(笑)
MiXIはどうぞご自由にお使い下さいませ。

投稿: かわうそ亭 | 2008/06/10 08:01

ありがとうございますm(_^_)m。

投稿: 一平(^_^)v | 2008/06/12 03:10

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