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2008/06/13

をぐさをとをぐさすけをと(承前)

乎久佐男と 乎具佐受家男と 潮舟の 並べて見れば 乎具佐勝ちめり 3450

この歌は萬葉集巻第十四の東歌にありました。「乎久佐男」には「をくさを」、「乎具佐受家男」には「をぐさずけを」のルビがついておりますね。前者のほうはにごらないようであります。
すなわち

をくさをと をぐさずけをと しほふねの ならべてみれば おぐさかちめり

となるわけです。

ところで、この乎久佐(をくさ)も乎具佐(をぐさ)も、おそらくは地名だろうという解釈になっているそうですが、どこらあたりをいうのかは、いまではもうわからない。
専門家、学者がいまではもうわかりませんというのは、なかなかよい気分をさそう。どんな空想をしてもいいですよ、と言われているようで。

乎久佐男の「男」は正丁(二十から六十の男)、乎具佐受家男の「受家男」は「助男(すけを)」の連濁したかたちではなかろうか、であればこれは次丁(しちやう)または老丁を意味するので、六十一から六十五の男のことか、とこれも控えめな推定です。

つづいて潮舟。これは「並ぶ」の枕詞ですが、おそらくは潮に乗って行き来する舟の意味であろう、ト。この歌の場合、引き潮で浜におき去りにされた舟がふたつ並んでいる様ではないだろうかとのこと。

以下、『萬葉集釋注 七』伊藤博(集英社)より引用します。

年寄と若者が力比べ、腕比べなど、座興にさまざま争うことは、農村・漁村の集会や一服時とかによく見られる風景。筆者は、六十数歳の老人が村の三十代、四十代の人びとの悉くに、腕比べにおいて勝ち抜いた実例を知っている。「乎具佐受家男」はきわめて頑丈で、しかも労働経験なども豊かな、底力のある味わい深い男として聚落でも評判の人物であったろうと思う。そこで注目すべきは、第三句の「潮舟の」である。「潮舟」は集中に四例。不思議に東国の歌だけにしか現れない。(東歌に二、防人歌に二)。潮に浮かぶ舟、海を往き来する舟の意で、東国の海で働く人びとの生活の息吹の漂う舟をいう。これによれば、今比べられているのは二人とも漁師で、潮風にあたった肌の黒光り、漁師としての表情・骨格の逞しさを比較し、「乎具佐受家男」はやっぱり一味違うと宣したのがこの歌であるように思われる。こうして、一首は、年寄りに花を持たせた形の歌であったことは確かで、これは年寄りをほめる歌であろうと思う。

ま、草田男のほうは、「をぐさを」を「小草男」ととって田圃の広がる農村風景をここに思い描いていますが、もともとの東歌のほうは漁村の潮の香がする俗謡であるらしく思えますな。まあ、萬葉の時代も、六十五歳くらいまでは、けっこう若いモンに負けないジジイがいた。あるいはそれくらいまでは、ジイさんもたよりにしてっからね、ということであったのか。

とびうをやをぐさずけをの未来あり  獺亭

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