右城暮石の俳句
古本屋に『右城暮石句集 声と声』(近藤書店)があったので買って帰る。
右城暮石(うしろ・ぼせき)は大正の終りから、「倦鳥」(主幹松瀬青々)によった俳人だが、戦後は「天狼」(戦前の新興俳句の流れをくむ)に加わった。
簡単な略歴を記す。
1899年生
1918年大阪電燈入社
1921年「倦鳥」入会
1946年「風」同人
1949年「風」を辞して「天狼」同人
1952年「筐」(かたみ)創刊
1956年名称を「運河」にあらため、主宰
1971年蛇笏賞
1995年歿
「運河」は1991年に茨木和生氏が継がれたそうですが、わたしが買った『右城暮石句集 声と声』はこの「運河」創刊30周年を記念して1985年に限定三百部で復刊されたもの。
復刊本なのできれいな状態でありました。序文は山口誓子が書いていますが、その書き出しはこうなっている——
右城暮石氏は「倦鳥」と「天狼」の接木作家である。「倦鳥」を台本として、それに「天狼」を接ぎ。自己を進めた作家である。
おそらくこれにつきているのだろう。
誓子の解説にならって、わたしもこの句集から、「倦鳥」時代のものと、「天狼」に加わって以降のものから気に入った句を抜いてみた。どこか懐かしく、せつないような気分にさそわれる。いい俳人だなあ、と思う。
短夜の波は波より起り來る
蜆蝶秋日の土に落ちつかず
雪のあと四五日濡れて山社
何の苦もなささうに死に金龜子
葛城の麓まで雪の大和側
打水の土凹ませて炭運ぶ
よき道へ上りてほつと春の雨
何かありし跡輪になつてはこべ萠ゆ
春の蚊の低きへ飛びて見失ふ
息にくもる特急白き椅子カバー
蜻蛉の死にても臭ひあらざりき
綿虫を指さす誓子掴む三鬼
氣が遠くなる春山のてつぺんは
颱風を充ちくるものゝ如く待つ
濁流に入りし藁塚須臾に消ゆ
便所の扉石で押へて吉野さむし
丸裸にて幼な児の海を享く
虹の輪や家鴨の番を犬がして
縦書きにした方が、読みやすいと思うので、画像にしたものも下に載せておきます。
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