悲しみの門を出よ
レベッカ・キャンとその同僚たちによるミトコンドリア・イブ仮説が「Nature」に発表されたのは1987年のことだから、もう20年もむかしのこと。
「ニューズウィーク」誌はさっそく、黒人のアダムとイブを表紙につかった特集を組んだが、この号の販売数は記録的なものになったらしい。
母系のみに伝わって行くミトコンドリアDNAの系統を辿って行くと、現生人類全部の共通の「母」が約20万年前のアフリカに生きていたことになる。なんでそんなことがわかるかは、もちろんわたしにはわからないけれど、単純に話として面白い。
その後、父系の系列で「時間旅行」をするY遺伝子の解析によっても、やはりわたしたちのルーツはアフリカにあることが裏付けられ、ホモ・サピエンス・サピエンスはすべて出アフリカを果たした集団の子孫が世界中に散らばって行ったものであるという仮説は、いまではほぼ定説となったようだ。
『人類の足跡10万年全史』スティーヴン・オッペンハイマー(草思社)は、このミトコンドリア・イヴの一族がどのようにして地球の上を移動して行ったかを、一般向けに解説した本である。
ここで、興味深いのは、オッペンハイマーがつかっているのが、ふたつの科学的な知見であること。
ひとつは当然、ミトコンドリアDNAとY染色体を、世界中の人々から採取して、その移動を地理上にプロットして行くと同時に、遺伝子的な突然変異の統計的な出現率をもとにした数学モデルからその移動や分岐がいつごろにおこったかを推論して行く方法。
そして、もうひとつは、これはわたしにはまったく新鮮なアイデアだったのだが、過去何百万年にわたる気象データである。過去千年の気象はたとえば縄文杉のような樹木の年輪をみることであきらかになる。おなじように、珊瑚礁や氷河や地表や海底の地層も、過去の気象変化を年輪のようにとどめている。
このふたつを組み合わせるとどういうことがわかるか。典型的なのが、われらのご先祖さまが、いつ出アフリカをはたされたのかという推理である。
長くなりそうなので、続きはまた明日。
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