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2009/02/25

テス・ギャラガーと芭蕉(上)

Owlwoman テス・ギャラガーの『ふくろう女の美容室』橋本博美訳(新潮社)を読んでいるのだが、ちょっと気になる箇所がある。
だがその話のまえに、この詩人、作家(という順番らしいよ)についてご存知でない方もいらっしゃるかもしれないので、それから書いておきますね。
もっともべつにわたしも詳しいわけではない、たまたま、ほかの本を読んで多少の予備知識をもっているというだけのこと。

ブログに移行する前の読書日記2003年2月10日の条。古い記事を使い回して恐縮だが、転載しておきます。

『馬を愛した男』テス・ギャラガー/黒田絵美子訳(中央公論社/1990)を読む。12編の短篇集。冒頭に「レイに」という献辞がある。著者は1979年からレイモンド・カーヴァーと一緒に暮らし始め、88年の6月に結婚した作家。(同8月にカーヴァー死去)
本書のことは、柴田元幸さんの『アメリカ文学のレッスン』で知る。決して難解なところはないのだが、ちょっと風変わりな感性の持ち主のようだ。そういう自分の毛色の変ったところを、世間のなかで生きていくために押し殺すのではなく、素直に表現して行きたいというのが、たぶん小説を書く動機になっているのではないかな。

ということで、この人の短編はレイモンド・カーヴァーとどうしても重なってしまうのですね。じっさいこの『ふくろう女の美容室』という短編集も愛するパートナーを亡くした男や女の喪失感が大きなテーマになっています。

さて、気になる箇所というのは「来る者と去る者」という短編のこの部分。少し長くなるが、パラグラフごと引く。

エミリーは心の中で、町の上空を駆け抜けていった。夫の眠る場所がまぶたにありありと蘇る。東の突端の、町が一望できる墓地。最近掘り起されたばかりの一画。棺が埋まっている土の上には大きな常磐木花輪(リース)が供えられ、花輪に付けられた幅広のベルベットのリボンには金色の文字で、「ナイアル、最愛の夫にして父親」と記されている。暮石を手配し、そこに刻む文言などもすべて決めるにはあと数ヶ月かかるだろうが、彼女にはすでに墓碑銘として心に決めている詩があった。聞くところによると、芭蕉もその昔この歌を下敷きにして俳句をつくったというが、それは、ある女性が初めての逢瀬の後に相手の男性へ送った贈答歌だった。たぶん、エピタフに使うのは上の句だけになるだろうか。

 君や来し
 我や行きけん
 おもほえず

「訳者あとがき」にあるように、この伊勢物語の斎宮から有原業平へ贈られた「君や来し」を下敷きにして芭蕉がつくった句というのは「春や来し年や行きけん小晦日」だと思うが、まあ、これ自体はまったくどうということもない句でありますね。唯一、芭蕉の年代を特定できるもっとも若いときの作品であるというのが重要なくらいで。(寛文二年、芭蕉十九歳頃)

(以下次号)

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