« 柏木如亭のこと | トップページ | 3月に読んだ本 »

2009/03/20

ありふれた意見

「どん底はこんなもんじゃない」
フジテレビのドラマ「ありふれた奇跡」は山田太一のひさしぶりの脚本。
横目で適当に見ていたのだが、最終回で主人公の祖父役の井川比佐志が、こんなことを言う。
戦災孤児で、裸一貫から左官職の親方になった七十代後半の役どころ。
人間はいざとなれば裏切るもんだ、人の善意や温もりなんてものは、極限状態ではあっという間に吹き飛ぶ。そんなふうに覚悟を決めて生きて行くのがいいんだとかれは思っている。それは間違っちゃいない。しかし、とかれは続ける。それはどん底の世の中で自分が体にたたきこまれた知恵だ。裏切られてもいい、人を信じてやってみることの大切さを自分は恐れていただけなんじゃないかと思うんだ、と。
そして、ぽつんとこうつぶやくのだ。
「どん底はこんなもんじゃない」

今年の春闘の経営側の回答について最終的な意思決定をしているのは、どんな世代だろう。60歳、プラスマイナス5歳というところで大過ないと思う。
生まれたのは1950年。60年代に少年時代を送り、70年はじめに企業に入り、以後順風満帆に出世をとげて企業のトップに上りつめた。いま百年に一度の経済危機を口実に、雇用の維持とひきかえだと偉そうな言い草で、賃金の実質的な切り下げをするのが、経営責任だと胸をはる。
未曾有の経済危機を、その言葉のまともな読み方も知らないような総理大臣が口にするのも悲劇だが、ほんとうに百年に一度の危機ならば、あの大東亜戦争と敗戦、占領などよりもいまのほうがもっと深刻なのか。それともいまはこの百年に二度目の危機なのか。それなら危機は三度でも四度でも襲ってくるだろう。

前にも紹介したが、モンテーニュがこんなことを書いている。

川を見たことがない人間は、初めてこれを目にして、大海原ではないかと考えた。われわれは、自分が知っているもののうちで最大のものを、その種類のなかで、自然が作りあげた極限のものだと判断しがちなのである。

現代の意思決定を付託されている経営者たちは、ひとまわりうえの先輩たちに謙虚に教えを乞うべきかもしれない。もしかしたら、こんなことをいわれるだろう。
経済危機をつくっているのは、むしろお前たちだよ。どん底はこんなもんじゃない。

|

« 柏木如亭のこと | トップページ | 3月に読んだ本 »

h)映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

私も「百年に一度の危機」と聞くたびに、「今後百年のことなのだろうか?」と思ってしまいます。少なくとも現首相は今より酷い時代を経験しているはず。(それともお祖父ちゃんたちに守られて、知らなかったのかな?)
ところで、こんな時代でも政治家に対する厳しい批判に較べ、経営者に対する批判が少ないですね。「経済一流政治三流」と言われたころの名残りかも知れない
市場のルールの半分くらいは法によって決まるので、経営者はその範囲で利益増殖に励んでいればよろしい、ということでしょうか?市場の欠陥は経営者が一番よく知っているはずで、自らの利益には関係ないからとそれを放置すれば、所謂「合成の誤謬」は拡大するばかり。自らを規制するルールを積極的に提案する義務が、経営者にはあるはずです。

投稿: 我善坊 | 2009/03/20 17:09

売り上げの落ち込みに直面した企業が経費削減に全力で取り組むことは、個別企業にとっては一見死活問題で当然のことのように見えますが、このような「正しい」行為を総資本が過剰反応で行った場合には、総労働は賃金が減り、将来的な不安から消費を控えますから、全体としてはますます売り上げは落ち込むことになり、経費削減努力でカバーできる以上の損失を企業はみずから招き寄せてしまう。
経営は学問とは違うんだ、というのもたしかでしょうが、いまの経営者はもしかしてバカの集団ではなかろうかという不安もあるなあ。
なにしろ、あのアソーさんも自分のことを政治家であり有能な企業経営者と自己規定していたはずですからねえ。
むかしの経営者は、三等重役と呼ばれようと、なかなか性根が据わっていたと思います。

投稿: かわうそ亭 | 2009/03/20 22:08

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23898/44405848

この記事へのトラックバック一覧です: ありふれた意見:

« 柏木如亭のこと | トップページ | 3月に読んだ本 »