本郷恵子『京・鎌倉 ふたつの王権』
小学館創立八五周年企画の「全集日本の歴史」は全十六巻である。
全部通して読むほどの馬力はもちろんないが、図書館でぱらぱらと見た感じでは中世史のあたりがなんだか面白そうな予感。
—というわけで第5巻の『躍動する中世』(五味文彦)と第6巻の『京・鎌倉 ふたつの王権』本郷恵子の二冊を続けて読む。
五味文彦さんの『躍動する中世』には、さほど心が躍らなかったけれど、本郷恵子さんの『京・鎌倉 ふたつの王権』はなかなかよかった。
本郷さんという方は、カバーに写真入りで紹介されているが、1960年生まれ、現在東京大学史料編纂所准教授とのこと。折り込みの「月報」にもインタビューが掲載されている。「子供の頃になりたかったものは?」の質問に「奥様(笑)そういうものだと思っていたので」とのお答え。はは、現実にはご主人も東京大学史料編纂所准教授(本郷和人氏)であり、なんと大学二年のゼミで知り合って(「恐ろしいことに」とは本人の弁)以来のカップルなんだそうな。うーむ。
この人の専門家としての評価がどのようなものなのか、わたしは素人だから知る由もないが、少なくとも、文章は読ませるね。読んでいて、面白く、読者を飽きさせない。
内容見本として、以下の文章を引いておく。
「はじめに」のところ。「年中行事絵巻」の世界を読み解くくだり。
人の世のすぐ隣に異界が広がり、巫女の力を借りてそちらと交渉することもあれば、望みもしないのにいきなり向こう側に連れ去られることもあった。いま生きている世界が、彼らにとってどれほど確かなものであったか、将来を予測することがどの程度意味のあることであったのか、私たちが簡単に想像することを許されないような隔たりが、現代と中世との間には広がっている。だからこそ『年中行事絵巻』に描かれた、毎年決まって行なわれる行事・儀礼がもっていた意味は、私たちが考える以上に重かったのではないだろうか。季節や時間の流れと連動して、年中行事だけは決まった手順で繰り返される―それらは中世の人々にとって、自分の位置を測る里程標としての意味をもっていたのではないだろうか―茫漠たる世界のなかで、はっきりとわからない時間の流れのなかで、いまにも終ってしまうかもしれない人生のなかで。
この時代について、視界が一気に晴れるような快感をもたらす好著であります。お薦め。
ただし、後半になると(とくに両統迭立あたりの流れ)若干、先を急ぎすぎたのか、教科書風になっているのが惜しまれる。
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