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2009/09/16

保田與重郎の短歌

ある方が保田與重郎文庫の『木丹木母集』を貸してくださる。自分で探して読もうとすることは今後もまずないと思うので、これもやはり縁であります。
本書は保田の(おそらく)唯一の歌集。
本書の「あとがき」の一部をひく。

この、「木丹木母集」は、昭和改元當時から、昭和四十五年迄の作歌を集めたもので、その殆どは今度初めて印刷に附すものである。(中略)歌に對する私の思ひは、古の人の心をしたひ、なつかしみ、古心にたちかへりたいと願ふものである。方今のものごとのことわりを云ひ、時務を語るために歌をつくるのではない。永劫のなげきに貫かれた歌の世界といふものが、わが今生にもあることを知つたからである。現在の流轉の論理を表現するために、わたしは歌を醜くしたり、傷つけるやうなことはしない。さういう世俗は私と無縁のものである。私は遠い祖先から代々をつたへてきた歌を大切に思ひ、それをいとしいものに感じる。私にとつては、わが歌はさういふ世界と観念のしらべでありたいのである。

わたしは部外者だから気楽なことを言うが、現代の歌壇は、まさに「方今のものごとのことわりを云ひ、時務を語るために歌をつくる」人々とその人々が主宰する結社のものであるようにも思える。だから保田のこの歌集は、今読むとひたすらになつかしく、同時に(皮肉なことに)新鮮で個性的なものに思える。
気に入ったものをいくつか抜く。

押坂の古川岸のねこやなぎぬれてやさしき春の雪かな

さゝなみの志賀の山路の春にまよひ一人ながめし花ざかりかな

山かげを立のぼりゆくゆふ烟わが日の本のくらしなりけり

けふもまたかくてむかしとなりならむわが山河よしづみけるかも

夜もすがら ふゞきし雨の 朝あけて松葉にたまり しづくする音

猪飼野にいさゝ秋風風立てば生きざらめやも生きてありしを

短夜のはやばやしらむ木下闇目にしみてしるきくちなしの花

解説の山川京子によれば「木丹」は梔子、「木母」は梅と教えられたとのこと。解説の結びは次のようになっている。

「くちなし」は若くして亡くなられた三男直日さんの象徴であり、典子夫人の歌集の題名なのです。

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