活版の増刷方法
近所の書店で「考える人」の最新号(2009年秋号)を買う。
特集(活字からウェブへの……。)や、丸谷才一のインタビュー(詩は酒の肴になる)に興味を引かれたこともあるが、じつは、ほかにもちょっと気になることがあって発売をたのしみに待っていたのです。
この「考える人」は季刊誌なので、本屋さんにはまさに「わすれたころにやってくる」のですが、そういうことを補うように、週刊ペースの「考える人メールマガジン」というのがあるのですね。取材の裏話や企画の進行状況などを編集長の松家仁之氏が身辺記事のように書いている。これがなかなか読ませるので愛読しているのですが、先月のメールで以下のような予告(?)があったのであります。
印刷を終えた活字は、活字の並ぶ棚(馬棚と呼ばれるものなのですが、なぜそのように呼ばれるのかなど、詳しくは次号特集で)にもどされるものもあれば、溶かされてふたたび新しい活字として鋳造され、よみがえるものもあるわけです。活字はどうしても欠けたり摩耗したりしますから、いつかは必ず溶かされる運命にあります。
しかし、書籍は増刷される場合がある。一年後に増刷、などということも珍しくありません。十年、二十年にわたって何十刷というロングセラーもあります。その場合、組まれた活字はどうなるのか。ずっと組み置かれたまま、増刷を待っているのか。おそらく私のような、50歳以上の出版社に勤める者であれば答えは知っているはずですが……このことについては詳しくは次号特集で(思わせぶりですみません)。
うーん、これはちょっと盲点で、わたしは漠然と一度組まれた活字はそのページのかたちのまま印刷所の倉庫に積み上げられているのだろうと思っていたが、いわれてみればそれも不経済な話である。
いま手元にある本で見ると、たとえば平凡社、東洋文庫の『名ごりの夢』の奥付は
1963年12月10日 初版第1刷発行
2000年12月20日 初版第25刷発行
となっていますね。印刷は東洋印刷株式会社であります。
全部で300ページばかりの本ですから、単純に見開きで版を組むとしても150組の版型が必要ですね。(実際はたしか4面くらい一度に組むのではなかったかと思いますが)版の面積は本を見開きにした大きさでいいとして、厚さはたぶん一組について4センチくらいは必要でしょうから、全部積み上げると、4センチ掛ける150で、600センチ、すなわち6メートルの高さが必要になります。全部を積み上げるのではなく二つの山に分ければ3メートルの高さになりますので、それほど嵩張るものでもなさそうです。数千冊分の本の活版を原型のまま倉庫に保管するのも、物理的に不可能ではないかもしれない。だから印刷会社としては、むしろ保管場所の問題よりも、使った鉛を再生できないという原価コストのほうが問題となりそうです。
50歳以上の出版社に勤める人なら知っている答えとはどんなものかしらと、いろいろ考えたのですが、よくわからなかった。—というわけで、「考える人」の発売を待っていたという次第。まさに考える人になっていたわけで。(笑)
答えは、ああそうか、なるほどね、というものでした。どうぞみなさんも考えてみてください。
| 固定リンク
「j)その他」カテゴリの記事
- ソングライター、カズオ・イシグロ(2015.07.07)
- オーディオのこと(2015.06.24)
- 読書灯のこと(2014.09.25)
- 恋の奴隷考(2014.04.09)
- 千本の記事(2014.03.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント