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2009/11/23

Brain Science Podcast

以前、英語教材の話題として、「ESL Podcastはおもしろい」という記事を書きましたが、今回も同じような話題です。
新潮社の季刊『考える人』No.30で、水村美苗氏がインタビューのなかで自分の日常を紹介しながらポッドキャストを聞いている、なんてことを話しておられます。

ポッドキャストは家事をしたり、散歩をしたりしながら聞けるので本当に便利です。よく聞いているのは、アメリカのNPRというラジオ局のインタビュー番組「フレッシュ・エア」。あと最近は「ブレイン・サイエンス」という番組。緊急治療室で働いている現職の女のお医者さんが個人でやっていて、脳科学にかんする本を紹介したリ、専門家にインタビューしたりする番組なんです。脳科学がいまいかにおもしろいかがわかる。

このインタビューを読んで、わたしもさっそく聞いてみたのだが、たしかにBrain Science Podcast は面白いです。
最新のエピソードは第63話ですが、こちらのサイトに行くとこれまでのエピソードを初回から最新回まですべてダウンロードできる。

Zfryk じつは、二つ三つばかり試しに聞いてみたら、あんまり面白いので、エピソードのいちばんはじめから聞き始めた。ちなみに第一回は2006年の12月15日に公開されています。最初の頃は、まだ録音があんまりよくなかったり(とくにインタビューの相手側が電話の録音なのかなあ、ちょっと聞き取りにくい)長さも短めなんですが、しばらくすると大体50分から1時間くらいで安定しますし、また音質もかなりよくなるので、一日一話みたいな感じで通勤時間に聞くのにちょうどいいのですね。行きに半分、帰りに半分、または行き帰りで二回聞くとか。いまちょうど第45話まできました。

で、今回のエントリーは、このポッドキャストが英語教材にとてもいいという切り口なんですが、なぜいいかというと理由が三つあります。

まず第一は、内容がすごく刺激的で面白い、ということがある。このポッドキャストのコンセプトはサイエンスに対してまったく素人(つまりたとえばわたし)に対して、近年の脳科学がつぎつぎにあきらかにしつつある知見を専門用語などをできるだけつかわずわかりやすく伝えるということなんですが、その立場は明確で(ひとつまえのエントリーとも多少関連しますが)二元論は決定的に否定されるということです。つまり、こころ、意識、情動、自我、感覚、知覚、記憶、言語、文字、知性など、人間のおよそすべての精神にかかわることは、すべて脳で生み出され、かたちづくられ、むすびつけられ、なぜ、あるいは、いかに「わたし」は「わたし」なのかは、脳科学が解明しつつあるという確信です。そしてこれについて疑問に思う人にもきっと面白いし、脳科学の知見はきっとあなたの哲学的な内省にすごく役に立つと思いますよ、というのが番組ホストのジンジャー・キャンベル博士の言葉であります。そして、それはまったく正しい。

第二に、このジンジャー・キャンベル博士の話す英語がまことに論理的、明晰、クリスタルクリアでありながら、じつに暖かく信頼できる「感じ」を聞き手に与えることです。この方は、水村さんのインタビューにもあるとおり、現役のERドクターだそうですが、いったい、仕事とこんなとんでもない番組を公開することの両立が、人間に可能なんでしょうかね。よほど頭脳の「排気量」が大きいのでしょう。
また登場するゲストの話す英語が多種多様でありながら、なるほど英語というのは、こういう科学的なアイデアを伝達するにはすぐれた言語だなあと思わせ、またとても面白い話をみんながみんなすること。
すなわち、ホストとゲストの英語表現力の魅力。

そして第三に、これは、わたしレベルの聴講者にとっての利点ですけれども(つまり英語が日本語と遜色なく聞き取れる方には不要な点)、第一話から完璧な筆記録がPDFファイルで用意されていること。iPodで聞いてだいたいのところはわかったつもりでいても、あらためてこの Transcripts に目を通すと、ありゃりゃ、こんなこと言ってたっけ、ぜんぜん聞き落としちゃってるじゃん、とびっくりすることが多い。

ためしに聴くなら、たとえば、第24話の

Reading and the Brain: Discussion of Proust and the Squid: The Story and Science of the Reading Brain by Maryanne Wolf

あたりが面白いのではないかと思う。
日本語についての話題もあるし、またこのウルフの著書『プルーストとイカ』については、上記の水村さんもインタビューでちらっとふれている。

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コメント

かわうそ亭様
私ごとき者ですが、10歳前後の頃、「わたしとは何か」わたしとは何処にいるのか、このように考えている自身の頭と身体の関係はどんなものなのか、などと、ものすごく考えたことがありました。ある日、その疑問に繰り返し強く捕らわれ、縁側の四角いガラス窓におでこをつけたまま、そこに見えている庭の景色を頭に刻みながら、「今、わたしは10歳。この感覚を持ったまま、30歳になる自分はあり得るのだろうか? 気が遠くなるほどはるかな未来の自分だ」と(いうようなことを)感じたのを思い出しています。
還暦を過ぎた今現在まで、その不可思議な感覚は、思い出したように繰り返し私を襲い、そのたびに、あの秋の、盛りを過ぎたコスモスの庭が蘇ります。10歳の時と少しも変わらぬ感覚です。
前項の記事を読んで、すぐにこう思ったのですが、恥ずかしくて、コメントを差し控えておりました。
本日、水村美苗さんのお名前が出ており、たまらず、書かせていただきました。私は水村さんのファンです。昨年は『日本語が亡びるとき』を読み、印象に残りましたが、その前から小説を通して興味を持っておりました。
彼女は、小説は寡作と言えますが、発表順に読み直してみて、その世界がより深く理解できたように思いました。
『續明暗』は、まるで漱石じゃないの、と心底感心して読みましたし、『本格小説』に先立って書かれた『私小説:From left to right』が身に沁みました。
Brain Science Podcast のご紹介、ありがとうございました。ちょっと難しそうですが、何割かは聴けたように思います。内容も面白そうなので、時間がある時、トレーニングしたい! 長くなってごめんなさい。

投稿: Wako | 2009/11/23 20:07

ああ、すばらしいお話ですね。ときどき「わたし」というのはつまるところわたしの記憶ということではないのかなあ、なんて思うことがあります。10歳の不思議な感覚がそのままに、そのときの光景とともに蘇るというお話、こころがゆさぶられました。ありがとうございました。
水村美苗さんは、わたしは先日『日本語が亡びるとき』をようやく読んだような次第で、ほとんどなにも知らないのですが、こういう人がちゃんと出てくるのは、日本も捨てたもんじゃないなと少し安心しました。

投稿: かわうそ亭 | 2009/11/23 20:47

あ、それから、先日NHKBSで、ちあきなおみを見ました。「喝采」の頃、同時代で見聞きしていた彼女は、そんなに好きじゃなかったのに、今は、とてもいいな、って思います。彼女の成熟が、当時の私には理解できていなかったのね。
私は、「黄昏のビギン」が一番好きです。
これも、かわうそ亭さんからの情報にて知り、視聴出来た番組でした。感謝。

投稿: Wako | 2009/11/23 21:47

(別話題ですみません。)
四手井綱英さんが亡くなられましたね。98歳4日までした。
四手井さんのことを話題にしたのは6年も前のことでした。

投稿: かぐら川 | 2009/11/28 21:26

森林管理局がやっていた写真コンテストに使われていた「里山」という言葉から、四手井綱英氏のことをかぐら川さんに教わりましたね。あれからもう6年ですか。ご冥福をお祈りいたします。
新聞によれば喪主は四手井淑子さんとのこと。この方の『きのこ学騒動記』も素敵な本でしたよね。無理矢理、本文の記事に関連づけると、人間の脳というのは驚くほど可塑性に富んでいるので、どこか一部が駄目になっても他の部分がカバーするし、またいくつになっても新しいチャレンジによってあらたな能力を自分に付加していくことができるんだそうです。「晩学」もまた人生の楽しみであるということを、四手井淑子さんは説得的に語って我々を勇気づけていただいたように感じています。

投稿: かわうそ亭 | 2009/11/28 22:13

すごくおもしろいです!私にはリスニングだけでは無理なので、一生懸命スクリプトを読んでしまいました。まず24話を聴き、トランスクリプトを読んで、かわうそ亭さんのように最初にもどり1話、2話と聴いたところです。
おっしゃるように、本当にすごい人ですね。ほかにももう一つ本に関するPodcastを公開していると言っていますよね。
かわうそ亭さんは耳のほうは大丈夫ですか?私はイヤホンを使うようになって聴力が格段に衰え、最近はなるべく外に音を出して聴くようにしています。

投稿: mimo | 2009/12/02 05:00

やあ、こんにちわ。
あのトランスクリプトはほんとうに重宝しますね。
私の場合、デフォルトの音量でスタートしてから、ボリュームを一段、一段と徐々に落として、できるだけ耳に負担がかからないようにしていますが、やはり長時間続けてイヤホンを使うのはちょっと気になります。
mimoさんのようにスピーカーで聞くのがやっぱりいいんでしょうね。

投稿: かわうそ亭 | 2009/12/02 18:56

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